2018 Fiscal Year Research-status Report
低温増殖性を獲得した酵母の応用に向けた基盤構築およびその分子メカニズムの解明
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18K19190
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
田中 克典 関西学院大学, 理工学部, 教授 (60273926)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 大輔 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (30527148)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 出芽酵母 / 発酵 / 低温増殖能 / 清酒醸造 |
Outline of Annual Research Achievements |
酵母は真菌類に属する単細胞生物であり、真核生物の優れたモデル生物である。一方で、アルコール発酵を行う微生物でもあり、出芽酵母Saccharomyces cerevisiae は酒造やパンの製造に用いられている。例えば、清酒醸造における酵母の発酵は、糖化と発酵のバランスを保ち、酒質を維持するために17、18℃以下の低温下で行われる。よって、清酒醸造において低温での増殖力・発酵力の高い酵母の取得は、製造期間の短縮や品質の向上などの応用につながる。 我々は、分裂酵母のDNA複製関連因子MCM-BP(分裂酵母Mcb1)を出芽酵母で発現させ、出芽酵母の細胞増殖制御に与える影響を検証することでその機能解析を行ってきた。その過程において、mcb1遺伝子を導入した出芽酵母株が低温で高い増殖能を示すことを見いだした。しかし、今回の解析から、分裂酵母mcb1遺伝子の導入は出芽酵母の低温増殖能の獲得の原因ではないことが明らかとなった。 これまでの知見から、低温では生体膜の流動性が低下するため、輸送体タンパク質の大きな構造変化を必要とするトリプトファンの細胞内への取り込みは低温で抑制されることが知られている。そこで今回、取得した低温増殖性株とトリプトファン輸送能の関係を明らかにするために、出芽酵母のトリプトファン輸送体をコードするTAT2遺伝子に注目して解析を行った。その結果、取得した低温増殖性株においてTAT2遺伝子の27番目のアミノ酸がグルタミン酸からフェニルアラニンに(E27F)変異していることを見出だした。そこで、tat2-E27F遺伝子を有するプラスミドでトリプトファン要求性の野生株を形質転換すると、低温において顕著な生育の向上が確認できた。以上の結果より、低温増殖性獲得の原因は、トリプトファン輸送タンパク質Tat2のE27F変異であるという結論に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
MCM-BPはDNA複製の際にDNAヘリカーゼとして働くMCM複合体に結合し、複製開始前複合体形成のためのMCM制御因子として重要な役割を担っている。MCM-BPはヒトの細胞ではhMCM-BPが同定されており、分裂酵母におけるオルソログとしてMcb1が知られている。また、MCM-BPは多くの真核生物で保存されているが、線虫や出芽酵母では保存されていない。我々の先行研究において、MCM-BPの機能を解析するために、ガラクトース存在下でmcb1遺伝子を発現するGAL-mcb1出芽酵母株を作製した際、偶然にも低温で生育が可能な株を取得した。このことからmcb1遺伝子の導入が低温増殖能の獲得に関わる可能性が考えられたため、新しくGAL- mcb1株を作り直した。すると、新たに作製した株は低温で生えることができなかった。以上の結果から、低温増殖能の獲得の原因はmcb1遺伝子を導入した際に全く異なる遺伝子上に偶然生じた変異である可能性が考えられた。 上記の状況は当初予期したこととは異なることであった。そこで、低温増殖能の獲得の原因となる変異の特定と、変異が持つ性質について解明することに目的を設定し直した。その後の解析により、低温増殖能の獲得の原因となる変異を特定することに成功したので、結果的に本研究計画は大きく進展したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
・tat2-E27F変異が低温での発酵能力に与える影響の検証 同定したTAT2遺伝子における変異が低温での発酵能力の向上に寄与するかを検証するため、15℃と30℃で発酵試験を行い、CO2発生量とCO2発生速度を計測する。また、現在Tat2-E27F変異の近くにある変異で、協会7号等に導入されているTat2-G24E変異が低温増殖能の向上に寄与する可能性についても同時に検証する。 ・tat2-E27F変異が低温でのTat2輸送体の能力向上にもたらす影響 Tat2タンパク質のE27F変異がどのようにTat2輸送体の能力を向上させ、低温増殖性の獲得に寄与しているのか明らかにする。先行研究の知見から、Tat2タンパク質の分解制御に与える影響を中心に解析を進める。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画とは異なる進展が見られたため、使用額の変更が生じた。それを踏まえて、次年度の使用計画を再構築した。
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Research Products
(3 results)