2018 Fiscal Year Research-status Report
出芽酵母において“超”高次倍数体の育種はどこまで可能か?
Project/Area Number |
18K19192
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Research Institution | Sojo University |
Principal Investigator |
原島 俊 崇城大学, 生物生命学部, 教授 (70116086)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浴野 圭輔 崇城大学, 生物生命学部, 准教授 (30310030)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 酵母 / ”超”高次倍数体 / 倍数性の維持・安定性 / 低次倍数体化 |
Outline of Annual Research Achievements |
倍数性は現代生命科学の重要な研究テーマのひとつである。また産業酵母の多くは高次倍数体であることから、倍数性はバイオテクノロジーの観点からも興味ある課題である。しかし高次倍数体育種技術が開発されていないことから研究は進んでいなかった。これまでの研究により、酵母の特異な接合型変異(matα2-102)を利用して、次々と“超”高次倍数体を育種する技術を開発し、昨年までに、報告のなかった6、8、10倍体を育種した。本研究では、どこまで"超"高次の倍数体が育種できるかに挑戦した。“超”高次倍数体を分離するため、matα2-102変異遺伝子とLEU2マーカーを持たせたプラスミドを持つα型2倍体株をエチジウムブロミドで処理し呼吸欠損にした。この株と、呼吸正常なa型株を交雑後、炭素源をグリセロールとしたロイシン非含有培地で選択すると、交雑体のみが生育した。そこで、この選択法を用いて、まず種々の高次倍数体を作成後、それら高次倍数体同士の交雑を行い、超”高次倍数体がどこまで育種できるかを検証した。α型 2、4、8、12倍体とa型6、8、20倍体との交雑を行ったところ、全ての交雑で接合反応が見られた。従って、少なくとも32倍体までは作成可能であると思われた。次に、顕微鏡観察によって交雑体の細胞の大きさを比較した。その結果、倍数性が上がるにつれ大きさが大きくなっているものの、細胞集団には細胞が小さいものも存在することがわかった。さらにFACS解析により細胞当たりのDNA含量を測定したところ低次倍数体が存在していることが明らかになった。これらの結果より、酵母において“超”高次倍数体の育種は少なくとも32倍体まで可能と考えられるが、”超”高次倍数体では高頻度で低次倍数体化が起こるので、実際に交雑体細胞集団の中にも32倍体細胞が存在することを明確に示す必要があると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
酵母の特異な接合型変異であるmatα2-102変異を利用した“超”高次倍数体の育種技術は、ほぼ確立したと考えている。当初は、交雑体の選択にロイシン要求性と薬剤耐性セルレニンを用いていたが、倍数性が上昇するにつれ交雑倍数体の選択に困難が認められたため、セルレニンに替えて呼吸欠損形質を利用することにした。その結果、炭素源をグリセロールとしたロイシン非含有培地を使えば、倍数性が上昇しても交雑体が効率よく選択できることがわかった。この選択法により、次々と高次倍数体を選択する方法論が確立したことも申請課題が順調に進捗した要因である。しかし、一方では、作成した高次倍数体の倍数性が安定に維持できない可能性も示唆された。本申請課題の目的を最終的にどのようなものに設定するかにもよるが、"超"高次倍数体が育種できるかどうかの観点から言えば、本年度は、少なくとも32倍体まで育種可能であることを示すことができたので、これ以上の倍数性を持つ"超"高次倍数体を育種できる可能性も十分であると考えている。しかし、同時に育種した高次倍数体の倍数性が安定に維持されないことも明らかになった。従って、本プロジェクトの最終的な目標の中に、高次倍数性を安定維持する方法論の開発を含めることも視野に入れたいと考えている。これは生命科学におけるかなり困難な課題になると想像できるが、重要で挑戦的な課題であるので、ぜひとも挑戦したいと思っている。
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Strategy for Future Research Activity |
どこまで“超”高次倍数体を育種できるかに応え得る育種技術は確立したと判断しており、この観点からは特段の推進方策を考える必要性はないと考えている。しかし、高次倍数性を安定に維持できることを研究の目的に含めるのであれば、その推進方策を考える必要があろう。例えば、高次倍数体の低次倍数体化のひとつの原因は、複数の染色体セットを持つ高次倍数体では、染色体の不均等分離の頻度が必然的に高くなることであろう。また、4倍体までのデータしか報告されていないが、倍数性が高くなるにつれ、染色体の不均等分離頻度自身も加算的に高くなることが知られている。従って、高次倍数体の低次倍数体化を防ぐには、染色体の不均等分離の頻度を低く抑えることもひとつの方策である。こうした方策はただちに思い浮かばないが、そうした表現型を示す変異株を分離することはできるかもしれない。例えば、染色体が均等分離すれば生存可能な仕組みを酵母細胞に持たせることができれば、そうした現象を利用して染色体の均等分離頻度が上昇した変異株を分離することができるかもしれない。逆に、染色体の不均等分離をモニターすることができる仕組みもこうした変異株の分離に利用することができる。その例として、URA3遺伝子を持つ酵母細胞は、培地に5-FOA を含ませておくと致死となる現象がある。従って、URA3遺伝子を持つ染色体が不均等分離をすれば、URA3を持たない細胞はコロニーを形成できる。従って、染色体の均等分離の頻度が上昇すれば、5-FOA培地におけるコロニー形成頻度が低下することが期待される。こうした表現型を持つ変異株は、微小管重合阻害剤に耐性を示す変異株として分離できるのではないだろうか。もし、そうした変異株が分離できれば"超"高次倍数体の低次倍数体化を低減する方策についてのヒントを与えてくれるのではないかと考えている。
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Causes of Carryover |
高次倍数体およびその親株などを含む種々の菌株のゲノム組成解析、および発言プロファイル解析を外注することを計画していたが、それらの菌株の予備的な解析が少し遅くなったため、データの納品が本年度中にできないとの予告を受けた。そのため、次年度に解析を発注することにした。
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Research Products
(8 results)