2018 Fiscal Year Research-status Report
Establishment of a receptor search technology for desired odor detection in insect odorant receptor-based sensors
Project/Area Number |
18K19203
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
神崎 亮平 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (40221907)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 嗅覚受容体 / 昆虫 / 匂いバイオセンサ / 培養細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
昆虫は、嗅覚受容体を使って、環境中のさまざまな匂い物質を検出する。代表者らは、昆虫の嗅覚受容体を発現させたSf21細胞(センサ細胞)が、嗅覚受容体の応答特性に従って、対象臭を選択的かつ高感度に検出する匂い検出素子として利用できることを示してきた。一方、用途に合わせてさまざまな対象臭を検出するためには、対象臭の検出に最適な嗅覚受容体を探索することが重要になる。本研究では、さまざまな昆虫種から対象臭の検出に最適な嗅覚受容体を探索する手法を確立し、本手法の活用例の一つとして、疾病の匂いを検出する嗅覚受容体の探索、およびセンサ細胞の作出を目指す。 平成30年度では、共受容体Orco、およびカルシウム感受性蛍光タンパク質(GCaMP6s)を安定に発現するSf21細胞系統を樹立し、さまざまな嗅覚受容体の機能解析に利用できる評価系の構築を試みた。まず、昆虫の嗅覚受容体、Orco、およびGCaMP6sの3種類の遺伝子を導入した細胞群から単一細胞を単離して系統化することにより、ほぼすべての細胞で蛍光応答が取得できる均質な細胞系統を樹立した。次に、樹立した細胞系統へ対象とする嗅覚受容体を遺伝子導入し、匂い物質に対する蛍光応答を取得した結果、Or13aを導入した場合には1-octen-3-olに、Or82aを導入した場合にはgeranyl acetateに、Or49bを導入した場合には2-methylphenolに、それぞれの嗅覚受容体の応答特性に従い、蛍光応答が取得できることを示した。これにより、樹立した細胞系統へ、嗅覚受容体遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入するだけで、比較的容易に対象の嗅覚受容体の機能発現が可能となり、蛍光強度変化量として嗅覚受容体の応答を評価できる手法を構築した。現在、本手法を活用して、疾病の匂いを対象とした嗅覚受容体の探索を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度では、昆虫の嗅覚受容体、Orco、GCaMP6sを安定に発現する単一細胞に由来するSf21細胞系統を樹立し、対象とする嗅覚受容体遺伝子を組み込んだ発現ベクターを遺伝子導入することにより、匂い物質に対する嗅覚受容体の応答性を蛍光強度変化量として取得できる評価手法を構築した。本手法は、異なる嗅覚受容体を導入すれば、導入した嗅覚受容体の応答特性に従って対象臭に対する蛍光応答が取得できることが分かり、さまざまな昆虫の嗅覚受容体の機能解析に利用できる可能性が示唆された。昆虫の嗅覚受容体の機能を比較的容易に評価できる新手法の一つとして、きわめて重要な成果が得られた。本手法にもとづき、現在、疾病の匂いを対象に嗅覚受容体の探索を進めるに至っている。 このように、嗅覚受容体遺伝子を簡便に導入して機能解析ができるSf21細胞系統を樹立し、さまざまな嗅覚受容体の応答特性解析に利用できる新規評価手法の構築を達成していることから、「おおむね順調に進展している」ものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度は、現在までに構築したSf21細胞系統による嗅覚受容体の機能評価手法を昆虫のさまざまな嗅覚受容体へと発展させて、本手法の活用例の一つとして、疾病にかかわる匂いを検出する嗅覚受容体の探索を進めていく予定である。具体的には、まずキイロショウジョウバエの嗅覚受容体を対象として、嗅覚受容体遺伝子を組み込んだ発現ベクターを構築し、Sf21細胞系統へ遺伝子導入する。遺伝子導入した細胞系統は、蛍光プレートリーダ等を利用して、疾病にかかわる複数種類の匂い物質に対する蛍光応答を取得し、応答特性を評価する。対象となる嗅覚受容体としては、ハマダラカ等のヒト由来の匂い物質を検出する昆虫種へと展開していく。これらの昆虫種の嗅覚受容体も同様に、嗅覚受容体遺伝子を組み込んだ発現ベクターを細胞系統へ遺伝子導入し、蛍光プレートリーダ等により匂い物質に対する応答特性を評価する。これらの評価を通して、疾病にかかわる匂いの検出の可能性を検証し、最適な嗅覚受容体を探索する。 探索した嗅覚受容体については、OrcoやGCaMP6sとともに共発現させてセンサ細胞を作出し、選択性や濃度応答性といった検出素子としての基礎性能を評価する。また、ヒト由来の背景臭の存在下での蛍光応答を取得することにより、疾病にかかわる対象臭の検出性能を評価する。以上の研究を通して、疾病の匂いの検出素子として昆虫の嗅覚受容体の利用可能性を検証する。
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Causes of Carryover |
本研究では、昆虫の嗅覚受容体遺伝子を容易に発現でき、蛍光応答にもとづいて嗅覚受容体の機能評価が可能な新規手法を構築し、さまざまな昆虫種の嗅覚受容体の機能評価を通して、疾病の匂いの検出に最適な嗅覚受容体を探索することを計画している。平成30年度では、主にキイロショウジョウバエの数種類の嗅覚受容体を対象に、新規手法の確立に注力してきた。現時点では、本手法を用いて、多数の嗅覚受容体やその他の昆虫種を対象とした網羅的な受容体の探索には至っていないため、RNAシーケンスやそれに伴う実験に関しては次年度に実施することとした。そのため、これらの費用に関して、次年度での使用額が生じた。 令和元年度では、キイロショウジョウバエやハマダラカのゲノム情報解析やその他の昆虫種の触角を対象としたRNAシーケンシングを実施し、これらの情報をもとに嗅覚受容体遺伝子を単離して、本手法による受容体の探索を実施する予定である。前年度未使用額については、これらの実験を実施するための物品費、および人件費として使用する予定である。
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