2019 Fiscal Year Research-status Report
海藻に感染する,新奇「善玉・悪玉」RNAウイルスの探索と機能解明
Project/Area Number |
18K19235
|
Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
木村 圭 佐賀大学, 農学部, 准教授 (30612676)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
外丸 裕司 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 瀬戸内海区水産研究所, 主任研究員 (10416042)
浦山 俊一 筑波大学, 生命環境系, 助教 (50736220)
|
Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
|
Keywords | 海藻 / ウイルス / FLDS / ノリ養殖 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,新技術のRNAウイルス探索技術・FLDS法を用いて、種々の海藻に感染する未知RNAウイルスを探索すること、海藻の品種・品質とウイルス感染の関係の解析を実施することを目標としている。平成30年度までに、課題①「天然海藻に感染している未知のRNAウイルスの探索」の為に、有明海で養殖されている紅藻スサビノリからのウイルスdsRNA検出に取り組んだ。また、これまでに紅藻スサビノリ、褐藻アラメ、コンブ、カヤモノリを採取しており、凍結保存している。現在までに、紅藻スサビノリと褐藻カヤモノリから現在までに、ウイルスdsRNAバンドを検出している。 さらに、課題③「海藻品種とRNAウイルス感染との関係解明」の為、平成30年度シーズン、令和元年度シーズンの有明海ノリ養殖海域から養殖スサビノリ藻体の採取を行ってきた。有明海佐賀県海域で刈り取りが行われている11月から3月の5ヶ月間にわたり、有明海佐賀県海域の東部(早津江タワー)、中央部(六角タワー)、西部(428鋼管)のノリ漁場から、ノリ葉体として最大15検体を目標に試料を採取、保存している。また、当初予定していなかった板海苔から、ウイルスdsRNAバンドを検出することに成功した。次年度の研究で配列解読を実施する予定である。 他に、本研究課題中で必要となる、ウイルスとノリの機能解析を実施するため、ノリのゲノム情報の整備を進めてきた。これまでに既存のノリゲノム情報の数倍にも及ぶゲノム情報を取得してきたが、令和元年度はさらに41検体のノリゲノム同士の比較を行い、品種ごとの違い等を見ることに成功した。この結果については、令和2年度中に論文にて報告する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海藻』は米や大豆とともに,日本の食文化を支える重要な食物である。日本各地でノリが養殖されているものの、食物病害の代表格とも言える『ウイルス』感染については,十分に理解が進んでいなかった。特に強毒性ウイルスが多いと考えられる、RNAをゲノムに持つRNAウイルスの知見は一切無いと言える状況にあった。一方で、宿主生物の病害要因とはならない、『善玉RNAウイルス』の存在も明らかにされている。本研究は、RNAウイルスを特異的に検出する「FLDS法」を用いることで、これまでに知られていない海藻RNAウイルスの探索を試み、その機能の一端を明らかにしようとする課題である。 平成30年度には、課題①「天然海藻に感染している未知のRNAウイルスの探索」を実施し、スサビノリ、アラメ、コンブ、カヤモノリを採取し、スサビノリやカヤモノリにおいて、ウイルスdsRNAらしきバンドを検出するに至っている。さらに当初は予定していなかった乾燥海苔からのFLDSによってウイルス用バンドの検出が可能であることを、新たに突き止めている。 また、課題③「海藻品種とRNAウイルス感染との関係解明」も実施しており、平成30年度、令和元年度のノリ養殖シーズン中に、有明海から25検体のノリを回収し、FLDS法を実施しているところである。抽出が予想より難しいことが判明し、手法の海底に取り組んできたため、配列解析は令和2年度に実施する予定である。また、その為の経費を平成31年度に繰り越している。 また、課題②「強制感染法を使った,海藻感染性RNAウイルスの探索」については、令和2年度末に北海道にてカヤモノリの生殖細胞実験を行う予定であったが、社会情勢の影響を受け断念している。しかしながら全体的にみて、新規の発見もえられいていることから、おおむね計画通りに進んでいると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題のうち、課題①「天然海藻に感染している未知のRNAウイルスの探索」については、引き続き採取、保存してきた紅藻スサビノリ、褐藻アラメ、コンブ、カヤモノリを対象に、FLDS法によるRNAウイルス探索を実施する予定である。加えて板海苔50検体からもFLDS解析を行う予定である。また、課題②「強制感染法を使った,海藻感染性RNAウイルスの探索」については、社会情勢の関係で、当初予定していた北海道大学室蘭臨海実験所でのカヤモノリやコンブ、ワカメの生殖細胞の回収実験の実施が難しいと予想される。その為、可能な限りノリのプロトプラストを用いた実験を実施したいと考えている。プロトプラスト等の裸の細胞に対して、ウイルス画分の液を摂取し、感染を促した後に、FLDS法でウイルス感染の可能性を検証することを計画している。ウイルス画分は、海底泥や藻体の培養液、抽出液を使用する予定である。また、既知のRNAウイルス複製酵素配列から開発された宿重プライマーを利用した、PCRとサンガーシーケンス法等も行い、新規ウイルスの探索も行う計画である。これらの課題を通して、『海藻に感染する未知RNAウイルス』の存在を明らかにしたい。 課題③「海藻品種とRNAウイルス感染との関係解明」については、2シーズン(11月~3月)にわたって有明海佐賀県海域から回収したのスサビノリと保存している乾燥海苔(約50検体)からFLDS法を実施することを計画している。これらのサンプルについては、産地やノリ等級、色素含有量、ビタミン含有量、代謝物量等を把握する予定であり、これらの変数とウイルスとの関係について、検証を行う予定である。最終的に、これらの課題を通して「海藻感染ウイルスの役割」の一端の解明を目指す。
|
Causes of Carryover |
本研究課題では、海藻の未知RNAウイルスの存在を探索する課題と、養殖海藻に感染するウイルスの役割を調べる課題を実施してきた。そのうち、ノリ葉体からのRNA抽出が予想以上に難しいことが判明し、抽出方法の再整備に関して時間をかけてきた。この抽出後は、次世代DNAシーケンスの外注を行う予定であるが、その試料調製費用(約15万円)についてを令和2年度に持ち越している。また、有明海の養殖ノリの解析については、平成31年度末に採取した養殖ノリサンプルのDNAシーケンス解析の外注費を支出する予定であったが、上記の通り抽出に集中したため、DNAシーケンス解析を令和2年度に持ち越している(約30万円)。また社会情勢の関係で実施できなかった打ち合わせの旅費を翌年度に繰り越している(約10万円)。令和2年度では、採取した養殖ノリ試料からのDNA抽出、FLDS解析、DNAシーケンスの外注を滞りなく実施し、最終的な研究打ち合わせを密に実施する予定である。
|