2020 Fiscal Year Research-status Report
秋において植物が温度ノイズの中から冬を感知するメカニズム
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18K19319
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
河村 幸男 岩手大学, 農学部, 准教授 (10400186)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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Keywords | 低温馴化 / 植物 / 冬季感知 / 温度ノイズ / 季節情報 / 機械学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では植物の野外における秋から初冬にかけての冬季感知メカニズムの解明を目指す。特に、1)植物が冬季感知に利用している環境パラメーターの特定、2) その分子メカニズムの解明、を目標とする。 1の項目では、野外処理は2018年8 月から2019年12月まで計67回行われ、その間、同じ場所にて気温、葉温、光量および波長分布の気象データも測定された。凍結耐性と気象データとの関連を機械学習により解析を行ったところ、凍結耐性の季節的な変遷は、馴化期間中の葉温データのみでほぼ100%予測できることが明らかとなった。次に、野外の気温データは暗に日長情報が含まれたものであったため、人工気象器で日長の影響を検討した。11月中旬の気温変化を再現した人工環境を作り日長の影響を検討したところ、日長も凍結耐性に影響することが明らかとなった。 2の項目の分子メカニズムの解明では、野外馴化でのRNA-seq解析、および、フィトクロム欠損株を用いた解析、の2つの方向から進めた。RNA-seq解析は、2019年9月から2019年12月の間で行われた。得られたデータを解析したところ、1)PCA解析の結果、9月から11月初旬まではそれぞれ大きく異なるが、11月下旬以降は2℃一定の低温馴化に近くなった。一方で、11月下旬以降でも、2)COR遺伝子などの凍結耐性に直接関与するものは野外と人工環境では大きく変わらないが、3)CBFなどの転写因子の挙動は両環境で大きく異なる結果が得られた。次に、フィトクロム欠損株を用いた解析では、凍結耐性への影響が大きかったphyB欠損株に着目し、2020年9月から12月にかけて野外実験を行った。機械学習によるシミュレーション実験を含め検討を行ったところ、PHYBが大きく関与するのは、11月後半から12月にかけての凍結耐性が大きく上昇する時期であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、当初予定よりもRNA-seq解析のサンプル数を大幅に増やせたため(12サンプルから231サンプル)、当初予定では無かった詳細な解析が可能となり、9月から12月にかけての野外馴化および一般的な2°C一定の低温馴化で行えたことは大きな進展であった。その結果、凍結耐性の大きさやCOR遺伝子などの凍結耐性に直接関与するものは野外と人工環境では大きく変わらないが、CBF転写因子などの制御系遺伝子の挙動が両環境で大きく異なる結果が得られ、温度変化に対する制御メカニズムの一端が見えてきた。また、phyB欠損株を用いた野外実験により、PHYBが大きく関与するのは11月後半から12月にかけての凍結耐性が大きく上昇する時期であることが明らかとなったことも大きな進展である。加えて、機械学習によるシミュレーション実験も可能となり、様々な温度変化、例えば、ノイズ的な変化や季節的な変化の影響が、詳細に検討できる環境が整った。一方で、シミュレーション実験に関しては、データが大規模になるため検討する条件が多くなり、また、それらに対する最適な解析方法を模索していることもあり、現在も予備的な解析を進め検討しているところである。以上、計画全体としてみると、本申請研究はおおむね順調に進展してきたと判断をしている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、シミュレーション実験により、ノイズ的もしくは季節的温度変化がどの様に凍結耐性の増減に影響するかを検討する予定である。方法としては、3年分の気温データおよび移動平均を用いることにより、ノイズ変化がほとんど無い季節的気温変化のデータを基準として、解析を行っていく予定である。この実験とは別に、日長の影響も検討していく予定である。シミュレーション実験では、気温データのみで凍結耐性の季節の変遷をほぼ100%予測できたが、このことは、植物は日長情報を使っていない、ということを意味するわけではない。気温データを詳細に解析を行うと、野外の気温データは暗に日長情報が含まれていることが明らかとなっており、例えば、最低気温と最高気温が同じでも日長が短いと昼から夕方にかけて急激に気温は低下する。そのため、日長の影響を検討するには人工気象器を利用することが必要となってくる。すでに、11月中旬の気温変化を再現した人工環境を作り日長の影響を検討したところ、日長も凍結耐性に影響することが明らかとなっている。今後は、9月から12月にかけての気温変化を人工気象器内で再現し、日長の影響を検討し、最終的にはシミュレーション実験に組み込むことを目指す。また、この人工気象器での実験では、phyB欠損株も用いて、低温馴化プロセスにおける日長からの制御とPHYBとの関係を明らかにすることを予定している。
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Research Products
(1 results)