2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K19321
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山口 良文 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (10447443)
|
Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
|
Keywords | 冬眠 / 遺伝子発現 / 低体温 |
Outline of Annual Research Achievements |
冬眠は、全身性の代謝抑制により低温・乾燥・飢餓といった極限環境下での長期生存を可能とする生存戦略である。冬眠する小型哺乳類であるジリスやシリアンハムスター(Mesocricetus auratus、以下ではハムと記載)は、冬眠期のあいだ、深冬眠と中途覚醒を繰り返す。深冬眠では、体温は外気温+1度まで低下し(外気温4度の場合、深部体温5-6度)、心拍数も1分間に10回程度まで低下する。深冬眠は数日から1週間近く経過したのち中途覚醒により中断される。深冬眠から中途覚醒への移行時には、体温は数時間で36度付近まで回復する。中途覚醒状態は半日程度継続し、再び体温が低下し深冬眠状態となる。ヒトやマウスなど多くの非冬眠哺乳類は長時間の低体温下では臓器機能を保持できず死に至ることを鑑みると、こうした冬眠自体が驚異的だが、その制御機構は未だ殆ど不明である。その要因として、冬眠研究のメインモデルであるリスやクマは、分子実体が全く不明の内因性の概年リズムに従い冬にしか冬眠しないため研究に時間を要する点、また野生由来のため遺伝的多様性や生息環境の違いなど個体差の影響が大きく結果の解釈が困難な点などがあげられる。一方、同じ冬眠動物であるハムは概年リズムに依存せず実験室での冬眠誘導が年間を通して可能、かつ遺伝的背景の比較的均一なアウトブレッドコロニーからの飼育個体の供給が可能なため、冬眠の分子機構検証モデルとして優れている。本研究では、体温が36度から低体温へと移行開始する深冬眠導入の際に発動するシグナルの同定を目指して研究を行なった。その結果、低体温移行時に発現が変動する遺伝子を複数同定することに成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ハムが冬眠に際して低体温へ移行する際に、発現が著しく上昇または低下する遺伝子を、肝臓および腎臓において多数同定した。さらに麻酔薬で強制的に低体温を誘導した際との遺伝子発現量を定量PCRで比較することで、これらを低体温応答の結果発現誘導されるものと、強制低体温では誘導されず深冬眠特異的に誘導されるもの、とに分類することが可能となった。さらに定量PCRによる経時的遺伝子発現量解析により、深冬眠特異的遺伝子の中にも体温が36度から低下するさなかに上昇する遺伝子が含まれることを明らかにした。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまで同定した多数の深冬眠特異的誘導遺伝子群のうち、経時的発現量解析をさらに行うことで、まさに深冬眠誘導時の体温低下直前に発現変動するものと、深冬眠誘導に伴う体温低下後に発現変動するものとを弁別する。さらに、深冬眠誘導直前から発現変動する遺伝子について、アデノ随伴ウイルスを用いて個体レベルでの発現量操作を行うことで、低体温を誘発する効果を持つ遺伝子を同定する。また、低体温誘発が熱放散拡大、熱産生抑制のいずれによるのか、呼吸商の解析等から明らかにしたい。これら一連の実験により深冬眠移行に伴う自発的熱反射遮断の遺伝子基盤を解明する。
|