2019 Fiscal Year Research-status Report
核内DNA密度に着目した哺乳動物一倍体細胞の効率的作出
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18K19325
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大杉 美穂 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (00332586)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 一倍体細胞 / マウス胚 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトを含む哺乳動物はゲノムを2組もつ二倍体生物である。多くの遺伝子に”スペア”が存在することは、個体や種の生存に有利である一方、生物学的・基礎医 学的な知見を得る研究対象としてはシンプルな一倍体細胞に利がある。このため、2011年以降マウスやヒトの一倍体ES細胞の樹立と研究における有用性が相次ぎ 報告されている。しかし一倍体単為発生胚の胚盤胞到達率は低く、さらに樹立直後のES細胞でさえすでに多くが二倍体化しており、わずかに含まれる一倍体をソーティングする必要がある。すなわち「樹立効率の低さ」という問題が残されている。本研究は、問題点の根幹が、従来法により作出された一倍体単為発生胚がもつ「核内DNA密度が通常胚の半分しかない」という細胞生物 学的特徴にあるとの仮説をたて、第二極体の放出ではなく均等分割を引き起こすことにより、正常なDNA密度の核をもつ2細胞期様の一倍体単為発生胚(以下2cell一倍体胚)を得て、一倍体細胞のみからなる胚盤胞発生法の確立とそこからの一倍体ES細胞の樹立を目指す。 本年度は、昨年度に引き続き複数のマウス系 統の卵を用い、減数第二分裂時に等割分裂を引き起こす条件の検討を行なったが、当初予定していたサイトカラシンBを用いた手法ではICR以外の系統では効率的な等割分裂誘導は達成できなかった。しかし、他のアクチン関連阻害剤を用いる方法により、複数系統のマウス卵に約3割の高効率で等割分裂を誘導する条件を見出した。また、得られた2cell一倍体胚は約7割という高効率の胚盤胞到達率を示した。一方、2cell一倍体胚から発生した胚盤胞にも、一部の割球に二倍体化が確認された。 また、等割分裂を誘導する条件検討の過程で、低濃度のノコダゾール存在下での単為発生誘導により卵染色体がすべて第二極体へと放出される現象を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画とは異なる方法であるが、単為発生時に効率的に等分割を引き起こすことに成功した。また、等割を引き起こすことにより得られた一倍体胚は、高い胚盤胞到達率を示し、「核内DNA密度が通常胚の半分しかない」ことが発生率の低さの原因ではないか、という仮説を指示する結果となった。一方で、二倍体化は抑制されないことがわかり、二倍体化と発生率の低さは別の要因による、ということが示唆された。 また条件検討の過程で見出した現象が、低濃度ノコダゾール存在下での体外受精により雄性発生胚を作出する方法の確立に結びついた。
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Strategy for Future Research Activity |
正常なDNA密度の核をもつ2細胞期様の一倍体単為発生胚を効率よく得られるようになったことから、次の3つの未解決課題に取り組む 1)胚盤胞到達率向上の原因については、i)細胞数が最初から倍あることが原因 ii)核内DNA密度が正常であることが原因の2通りが考えられる。i)の可能性について、片方の割球を除去したあとの発生率をみることで検討する。 2)胚盤胞到達率は向上したが、二倍体雌性発生胚の到達率には及ばない。この差が発生時期のいつ生じるのかを検討する。 3)二倍体化は完全には抑制されないことがわかったが、さらに二倍体化の効率や時期についての知見を得る。
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Causes of Carryover |
2019年5月に購入したミネラルオイル(Sigma M8410-1L, LOT MKCH0156)の品質が粗悪であったため、胚発生実験がまっ たくうまくいかなくなった。10月にSigma社が該当ロットに問題があることを認め、問題のないロットが提供されて以 降は順調に進み予想を上回る結果が得られつつあるため、停滞していた分の研究期間を延長し精査することとした。
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