2018 Fiscal Year Research-status Report
砂漠アリの高温下における代謝恒常性維持を可能とするメカニズムの解明
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18K19326
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小幡 史明 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 講師 (40748539)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | Cataglyphis / Drosophila / 熱耐性 / 代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで調べられている中で、最も高温に耐性をもつ昆虫の一つが、CataglyphisやMelophorusなどの砂漠に住むアリである。これらの砂漠アリは、普段は温度条件の比較的マイルドな地中の巣の中で生活しているが、その働きアリ(ワーカー)は、炎天下の日中、55度付近の外気温下で、10分近く活動することが可能である(Ghering et al., PNAS, 1989、Wehner et al., Nature, 1992)。このような高温環境で、高度な運動をおこなうためには、優れた耐熱システムを備えている事が必要である。しかしながら、その機構はほとんど明らかになっていない。したがって、遺伝子調節と比して、分単位の素早い応答が可能である代謝経路に特徴がある可能性はないだろうか。また、極高温下においても、熱耐性を持たない昆虫の死骸(=餌)を探知・発見して、迅速に巣に持ち帰るためには、感覚器官や運動器官が正常に機能することが必須である。それを可能とするための最低限の代謝を維持しなくてはならないはずである。これまでに熱耐性を持つ砂漠アリがどのように高温下で代謝恒常性を維持しているかを分子レベルで解明することを目指す。砂漠アリCataglyphis bombycinaと、類縁の非砂漠アリCataglyphis cursor、ショウジョウバエ野生型系統のそれぞれに対して、室温(25度)および高温(45度)に10分間暴露した場合の代謝産物量を網羅的に解析し、いくつかのアミノ酸や神経伝達物質などの量に特徴的な変動がある可能性を見出している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
砂漠アリの取得・および飼育に手間取り、基本的な餌や環境条件を整える必要があったが、時間をかけて問題を克服できた。また、熱をどの様にかけるかという事も重要であり、砂漠環境で暴露される様な上方からの日射を取るか、ホットプレート・あるいはインキュベーターによって熱をかけるかといった条件検討が必要であったが、これも概ね完了した。一方、メタボローム解析についても細かい条件検討が必要であり、砂漠アリに見られる特徴的な代謝変動を抽出するプロセスに多くの労力と気遣いが必要であることが分かった。しかし徐々に解析のプラットフォームが構築されつつあり、今後解析が加速すると思われる。また現時点でいくつか興味深い代謝変動が予備的に見えており、その機能解析についても阻害剤やショウジョウバエでの遺伝子操作により解析を進めたい。特にアミノ酸については栄養学的な方法や、その代謝経路の予測が比較的やりやすく、またタンパク質代謝に関しても注目して研究を進めている。昨年度は、共焦点顕微鏡や走査型電子顕微鏡による撮像によって、比較生物学的な解析も同時に進め、組織構造などについても解析を行っている。 砂漠アリでの遺伝子操作は困難を極める。RNAiによる瞬間的なノックダウンは不可能ではないものの、共同研究者が進めているゲノム情報の整備が必要である。しかしその進捗は思う様に進んでいないのが現状である。一方、CRISPRによるノックアウト作出は、女王アリの取得が難しく、したがって事実上不可能である事から断念した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在進めている条件検討を進め、最適な熱条件、代謝物解析条件を決定する。それが終わり次第、異なる砂漠アリや日本の熱耐性を持たないアリなど、生物種の幅を広げ、真に砂漠アリに特徴的な代謝変動を抽出する予定である。オーストラリアに生息する砂漠アリMelophorusに関しては、現在Ken Cheng博士と採集旅行について打ち合わせ中であり、うまくいけば今年の秋から冬(オーストラリアの春から夏)にかけてサンプル採集に行く予定である。砂漠アリ2種の共通点を探る事で、より熱耐性に貢献しうる代謝経路を同定することが容易になると考えられる。 現状で明らかとなってきたアミノ酸変動に関しては、特に栄養学的な方法や阻害剤を積極的に利用して、解析を進める。例えば、比較メタボロミクスにより変動が見られた代謝物の増加を抑制するような薬剤を、熱耐性アリに導入し、熱耐性を失うかを解析する。 今年度はさらにショウジョウバエにおいて遺伝学的な解析を検討する。ショウジョウバエの高温下での代謝解析から、熱耐性を持たない生物での代謝恒常性のボトルネックを解析する。砂漠アリを使った実験に比べノウハウも多く、迅速に解析する事が期待される。 抽出してきた代謝変動に関しては、in vitroでの生化学的な解析も導入する。
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Causes of Carryover |
初年度ではショウジョウバエを使った遺伝学的な解析が立ち遅れており、主に砂漠アリ飼育環境の整備に消費した部分が多かった。今年度に、ショウジョウバエ飼育に要するインキュベーターの購入を行う予定であり、そのために約50万円を繰り越した。
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Research Products
(2 results)