2019 Fiscal Year Research-status Report
Studies to settle the mystery whether chlorophyll e exists in nature
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18K19339
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宮下 英明 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (50323746)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | クロロフィル e / 黄緑藻類 |
Outline of Annual Research Achievements |
クロロフィルeは、1940年代に天然から採取された黄緑藻類から検出される微量の色素として報告されたももの、それ以降の報告がない。その理由として、天然には存在せず色素抽出過程において生成した色素、黄緑藻ではなく黄緑藻に付着していた他の藻類が生産した色素、特定の環境条件によって誘導される誘導色素、の3つの仮説を念頭に、本研究では、天然の黄緑藻類の採集、色素組成分析、黄緑藻類/付着藻類の分離、系統保存株の購入、各種光質条件下での培養、培養細胞の色素組成分析等により、長きにわたる藻類学の「謎」に一定の理解を与える一助とすることを目的としている。2020年度は、大学敷地内にある人工池から黄緑藻フシナシミドロ(Vaucheria sp.)を分離し、培養株を確立した。培養株の確立に手間取ったこと、また、生育が遅いことから、色素組成の変動に対する光質の影響についての検討は現在進行中である。また、国立環境研究所より3株の黄緑藻、Ophiocytium parvulum、Botrydium granulatum、Mischococcus sp.を入手し、白色、青色、緑色、赤色の各種LED光源下で培養し、HPLC分析によって色素組成に与える光質の影響を調べた。その結果いずれの藻類株においても、青色光、緑色光培養下においてクロロフィル/カロテノイド比が、白色光、赤色光培養下のそれに比べて低下した。また、この実験において、白色培養ではほとんど蓄積されない色素が、青色光や緑色光で蓄積さるものもあった。しかし、いずれの光質においてもクロロフィルeをはじめ、クロロフィル化合物と考えられる色素の誘導・蓄積は見られなかった。さらに、光質を変えた培養では、主たる細胞形態の変化、生活環の変化がみられた。フシナシミドロも入手したが、増殖が遅く、光質の影響についての検討には至っていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、発見以降報告が乏しいクロロフィルeが、天然には存在せず色素抽出過程において生成した色素、黄緑藻ではなく黄緑藻に付着していた他の藻類が生産した色素、特定の環境条件によって誘導される誘導色素、の3つの仮説を念頭に進めている。2018年度には、大学敷地内の人工池に生息する黄緑藻フシナシミドロを採集し、季節によって。クサビケイソウ属(Gomphonema spp.)の珪藻類や糸状緑藻スティゲオクロニウム(主にStigeochlonium sp.) が多量に付着・生育していたことを観察している。それら天然のフシナシミドロサンプルの色素組成分析によって、フシナシミドロには含まないカロテノイドであるフコキサンチンが多く検出されたとから、1940年代に分析されたフシナシミドロの色素分析の際にも付着藻類が影響していた可能性が高いことを指摘した。2019年度は、国立環境研究所より入手した黄緑藻株を用いて、細胞中の色素組成に与える光質の影響を調べた。その結果、光質に対する順化によって、色素組成の変化は見られたものの、クロロフィルeをはじめ、クロロフィル化合物と考えられる色素の誘導・蓄積は見られなかった。これらの結果は、クロロフィルeが誘導色素である可能性が小さいことを示唆している。しかしながら、1940年代にクロロフィルeの存在が示唆されたフシナシミドロの色素組成に対する光質の影響についての検討には至っておらず、当該実験を実施することがクロロフィルeが誘導色素である可能性を考える上での直近の課題である。黄緑藻類に付着する藻類の分離については、時間的制約のため保留し、光質の影響を明らかにすることを優先する。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度も引き続き、天然の黄緑藻類の採集、天然サンプルの色素分析をおこなう。さらに、確立した培養株および入手したフシナシミドロを各種光質条件下で培養し、それら培養した細胞の色素組成分析によって、誘導色素である可能性について追求する。天然の黄緑藻類の採集については、採取地点を増やすことによって、フシナシミドロに付着する藻類の多様性や藻類の付着にともなう色素組成分析結果への影響を明らかにする。ただし、時間的制約から収集・分離は最小限に留め、黄緑藻トリボネマ(Tribonema sp.)の収集を試みる。トリボネマの収集にあたっては採取地、採取時期に関する既存の報告等を収集し、情報に基づいて採集をおこなう。特に2020年度は、これまでに確立した培養株および各種保存期間より入手した藻類株の色素組成にあたえる光強度や光質の影響を精査し、クロロフィルeが誘導色素である可能性について詳細に検討する。
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