2018 Fiscal Year Research-status Report
アリが花形質を進化させた?:虫媒花の形質進化の研究における新しい挑戦
Project/Area Number |
18K19354
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
酒井 聡樹 東北大学, 生命科学研究科, 准教授 (90272004)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 食害 / 花 |
Outline of Annual Research Achievements |
蜜は、送粉者(ハチ・チョウなど)を誘引するために生産される。蜜の分泌速度と濃度、吸蜜されてから蜜量が回復するまでの時間などが多様に分化している(Royら2017)。また、蜜腺を被い、吸蜜しにくくしている構造も進化している。たとえば多くの種で、雄しべの基部が肥大して蜜腺を被っている。仮雄しべ(右写真)という、蜜腺を被う器官が進化している種もある。吸蜜しにくくすることで、花に滞在する時間を長くしていると言われている(Ohashi 2002)。 これら、蜜分泌・吸蜜に関わる花形質はすべて、送粉者による送受粉効率を高めるために進化したと考えられてきた。これは、現代生物学の一つのパラダイムとなっている。 しかしここに重大な見落としがあると私は考えた。アリの影響である。アリは、吸蜜のために花を訪れる。しかしほとんどの場合、送粉者としては機能しない。むしろ、アリによる吸蜜は、虫媒花の繁殖に負の影響を与える(たとえばSamraら2014)。 有害ならば、アリによる繁殖妨害を防ぐ花形質が進化しているのではないか。それは、送粉者による送受粉の促進と同等以上に、花形質を形作る要因となっているのではないか。送粉者による送受粉効率を高めると考えられてきた形質の多くが、実は、アリを防ぐために進化したのではないか。しかしながらこれまで、こうした視点での研究は行われてこなかった。 本年度は、花形質に対する食害の影響にとくに着目し解析を行った。ヒメシャガおよびヤマジノホトトギスを材料に、食害が開花戦略・結実戦略にどのような影響を与えるのかを解析した。その結果、食害部位によって影響が異なることなることがわかってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通り、食害の影響を見ることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
計画通り、食害の影響を解析していく予定である。さらに、アリの影響が、植物の開花戦略に与える影響も解析する。すなわち、どのような開花順で開花するのか、その適応的意義は何なのかを解析する、解析には、キバナアキギリを用いる予定である。
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Causes of Carryover |
研究対象であるキバナアキギリ・ヤマジノホトトギス・ヒメシャガの個体数が、当初予定した数よりも少なかった。そのため今年度は、これらの解析に用いるための物品や旅費が予定よりも少なくなった。来年度は、調査対象の個体群を増やし、十分な個体数を確保する予定である。
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