2019 Fiscal Year Research-status Report
眼の不合理な構造の謎:視細胞内レンズの進化的起源から迫る
Project/Area Number |
18K19362
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
古賀 章彦 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (80192574)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 眼 / 視細胞 / 夜行性 / ゲノム / 進化 / 脊椎動物 |
Outline of Annual Research Achievements |
夜行性の哺乳類の多くで、桿体細胞(微弱な光を捕らえる視細胞)に核内レンズ(核の中央部でのヘテロクロマチンの凝集)が備わり、これが夜間視力の増強をもたらす現象が、知られている。本研究課題の直接の目的は、核内レンズの起源は脊椎動物の共通祖先まで遡るとの仮説の下、核内レンズを哺乳類以外の脊椎動物で見つけ出すことである。明確な夜行性を示す種、および常時暗環境に生息する種を選び、材料として用いる。 2年の研究期間のうちの1年目の前半で、ヘテロクロマチンの存在部位を検出する実験の方法に、改良を加え、感度の上昇を達成した。そして1年目の後半に、ヤモリ(爬虫類)とイモリ(両生類)について、ヘテロクロマチンの核内分布を調べた。1年目終了の時点で、核内レンズの存在を示す結果は得られていなかった。 2年目となる本年度は、両生類でツメガエル等4種を追加して、調べた。そして両生類では、核内レンズが存在するとの判定ができる種は、なかった。このため対象を、硬骨魚類に広げた。用いた種は、夜行性と考えられる種、および深海魚に近いといえる種である。キンメダイやオコゼなどの6種であり、食品流通で新鮮な個体が入手できるものである。このうちのキンメダイで、核内レンズが存在することを示唆する結果が得られた。ただし、結果は明瞭ではなく、いまのところ示唆に留まっている。哺乳類で開発した実験法を硬骨魚類に適用したものであり、哺乳類と硬骨魚類の間でヘテロクロマチンのメチル化状態に違いがあることが原因と、推測している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
明確な結果は得られていないため、進捗としては、遅れている状態である。これを取り戻すには、実験方法に一段の改良を施すことが、必要となる。実験の根幹をなす部分は、網膜サンプルに対する免疫染色である。ここでのサンプルの作製方法と、用いる抗体が、改良の主な対象となる。2年目終了の時点で、まだ改良の実施には至っていない。哺乳類と硬骨魚類の間での、目での組織構成の違いや、DNA でのメチル化状態に違いなどを、考慮に入れることが必要であり、改良の案が出たところである。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目に、上に記すような実験法の改良に取り組む。目指すところは、硬骨魚類の細胞核でのヘテロクロマチンの存在部位を、高感度で検出することである。これを達成したのちに、これまでに核内レンズの存在の可能性が示唆されているキンメダイに適用し、可能性をより深く考察する。また、キンメダイは、近海に棲む深海魚である。たとえキンメダイ1種といえども示唆が得られたことは、より深い(つまり、より暗い)場所に生息する種を調べれば、より明瞭な結果が得られる可能性があるといえる。これを実現するために、深海魚の生態を専門とする研究者に、協力を依頼した。捕獲の機会があったときに、サンプルの分譲を受ける。
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Causes of Carryover |
本研究課題は、脊椎動物全体を研究対象とする。ただし、実験方法は、哺乳類で開発したものである。哺乳類と硬骨魚類は、脊椎動物の中では早くに分岐しており、この実験方法を硬骨魚類に適用する場合は十分な感度が得られないという問題に、直面した。この問題を解決するには、検討のための作業および時間が必要である。これには多額の経費を必要としない。本年度の後半をこれにあて、経費を要する解析は、中断とした。そのために留保となった経費を、来年度に行う解析に使用する。また、目的達成により有効な材料(深海魚)が来年度に入手できる見込みが、立っている。入手できた際に解析が行えることを期し、このために必要な経費も留保とした。
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Research Products
(4 results)