2018 Fiscal Year Research-status Report
細菌の秘めたる環境生残戦略:ストレス抵抗性を高める種間相互作用
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18K19364
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
春田 伸 首都大学東京, 理学研究科, 教授 (50359642)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 生残戦略 / 種間相互作用 / 細菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
土壌から細菌を分離し、それらを組み合わせ、高塩濃度ストレスに対する抵抗性を評価してきた。被験菌には、単独状態での生残性に関する知見を蓄積してきた土壌細菌の一種である紅色非硫黄光合成細菌Rhodopseudomonas palustrisを用いた。作用菌の効果的な探索のために、これまでに考案してきた寒天重層隔離培養法の改変・試行を繰り返した。その結果、単独では生育できない高NaCl濃度で、被験菌の生育を可能にする土壌細菌を新たに5株見出すことができた。 高塩濃度ストレス耐性に注目した土壌細菌の探索に加え、熱耐性に注目して温泉細菌の探索を開始した。長野県中房温泉(弱アルカリ硫黄泉)において、既知シアノバクテリアの生育上限である62℃以上の温泉流水中(80℃)に分布しているシアノバクテリアを発見した。このシアノバクテリアを分離培養し、既知シアノバクテリアと比較したところ、系統的にも、生育温度特性および熱抵抗性においても違いがないことが分かった。これらの知見から、温泉流水中で共存している他菌の作用により、熱抵抗性が上昇していると考えられた。そこで、共存する多種類の従属栄養性菌との混合条件で、本シアノバクテリアの生育温度特性を評価したところ、生育上限温度が高くなることが観察された。 以上のように、本研究で、土壌光合成細菌の高塩濃度ストレスへの抵抗性上昇をもたらす土壌細菌と、温泉シアノバクテリアの熱耐性を上昇させる好熱菌を見出すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
環境ストレス抵抗性を上昇させる微生物種間相互作用を同定するための寒天重層隔離培養法の改変・最適化を推し進めた。それにより、土壌細菌の一種である紅色非硫黄光合成細菌Rhodopseudomonas palustrisの高塩濃度抵抗性を上昇させる土壌細菌を新たに5株見出すことができた。現在、これら細菌を分離し、その系統を解析するとともに、被験菌の環境ストレス抵抗性に与える影響を多角的に評価している。 さらに、研究当初に予想していた高塩濃度耐性だけでなく、他菌の高温抵抗性を上昇させる細菌の探索を開始し、新たな微生物種間相互作用を見出すことができた。長野県中房温泉(弱アルカリ硫黄泉)において、既知シアノバクテリアの生育上限を超えた80℃の温泉流水中に分布しているシアノバクテリアを発見した。このシアノバクテリアを分離培養し、既知シアノバクテリアと比較したが、系統的にも、生育温度特性および熱抵抗性においても違いがないことが分かり、共存他菌の影響が考えられた。作用菌である共存他菌の同定には至っていないが、温泉から取得した従属栄養性菌が多種共存した状態で、本シアノバクテリアの生育温度特性を評価したところ、生育上限温度が高くなることを観察している。 現在、これら種間相互作用の機構解明に向けて、細胞外分泌因子の分画および作用因子の同定とともに、被験菌の転写、タンパク質発現プロファイル等の解析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに見出してきた環境ストレス抵抗性を高める種間相互作用について、その種特異性を幅広く調査するとともに、作用機構の同定、自然環境での検証を同時並行的に進める。作用機構として、細胞間シグナル伝達物質の可能性だけでなく、細胞同士の接触刺激についても検証・同定していく。これらは、作用菌の培養液を遠心分離・ろ過して回収した無細胞画分に作用がみられるか、互いの細胞が行き来しないよう膜で隔てた二層培養装置でも作用がみられるか、を検証することで明らかにする。作用に関わる分子は、無細胞画分または細胞表層成分からクロマトグラフで分離・精製し、分子量、化学構造を決定して、同定する。ストレス抵抗性の上昇機構については、作用菌や作用分子による被験菌の転写変化解析、タンパク質発現プロファイル、細胞内蓄積物質、細胞膜・細胞壁成分の解析、から探る。このようにして作用シグナルの受容、作用の伝達、発現に関わる分子を推定し、遺伝子改変株で検証し、作用機構を同定する。 このような種間相互作用が、これらの細菌が生息している実際の環境(土壌、温泉)で、はたらいているかを検証する。環境中で、これら細菌は細胞集塊(バイオフィルム、バイオマット)を形成している。細胞集塊を採取して、作用菌と被験菌の細胞を蛍光標識して顕微鏡観察し、細胞分布・近接性を調べる。また、実環境での作用菌の細胞間シグナル物質の検出、および被験菌の遺伝子発現を解析する。
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Causes of Carryover |
次世代シーケンサ等を活用した転写解析やゲノム解析を計画していたが、種間相互作用検出系の確立と最適化を幅広く検討したため、予定よりも時間を要し、これら高額な解析に必要な支出が抑えられた。 多様な種間相互作用ができてきたため、年度当初から、次世代シーケンサ等を活用したこれら解析を進める予定であり、今年度の早い時期に、使用する計画である。
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