2018 Fiscal Year Research-status Report
リン脂質分布のゆらぎによるイオンチャネル制御機構の解明
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18K19398
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
原 雄二 京都大学, 工学研究科, 准教授 (60362456)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | カルシウムイオンチャネル / リン脂質フリッパーゼ / リン脂質 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体膜の構成成分であるリン脂質は膜タンパク質と相互作用することで、膜タンパク質の構造や活性などを制御する。しかし生体膜中の脂質分子およびその動態、さらに脂質との相互作用によりもたらされる膜タンパク質機能の調節機構については、未だその全容は明らかでない。我々の研究により、膜タンパク質は生体膜のリン脂質分子の非対称分布(配向性)の局所的なゆらぎを感知し、それを細胞内へと化学的なシグナルへと伝達し、細胞応答を惹起することが示唆された。そこで本研究では、リン脂質分布(配向性)のゆらぎが引き起こす細胞応答のメカニズムを明らかにすることを目的とする。細胞膜に存在するイオンチャネルを実験材料として、リン脂質非対称分布およびそのゆらぎが様々なイオンチャネルに対しどのような応答を引き起こすかを解明することにより、膜タンパク質‐脂質相互作用の意義、および膜を基軸とする生命現象についてのメカニズム解明を目指してきた。 当該年度では、リン脂質非対称分布をもたらすマスター因子であるリン脂質フリッパーゼにより機能制御をうけるイオンチャネルの同定を試みた。同酵素欠損細胞株を樹立し、カルシウム透過型イオンチャネルの活性評価を行ったところ、TRP(Transient Receptor Potential)チャネルの一種が、リン脂質フリッパーゼにより制御されることを見出した。現在、同チャネルのどの領域がリン脂質の揺らぎを感知するか同定を目指すとともに、生体内におけるリン脂質-イオンチャネルの機能軸の役割について解明を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の計画として、リン脂質の揺らぎにより制御されるイオンチャネルの同定を目指してきた。その結果、上記で述べた通り、リン脂質フリッパーゼによる膜間輸送により制御されるイオンチャネルの同定に成功した。我々の先行研究では、膜張力により活性化されるイオンチャネルPIEZO1が、フリッパーゼにより制御されることを既に明らかにしているが、本研究により、そのメカニズムの普遍性が示された(投稿準備中)。また今後に向けた取り組みとして、当該イオンチャネルを内在的に発現する細胞株の同定に成功した。また、当初の申請内容に加えて、より直接的にイオンチャネル‐脂質間の相互作用を明らかにするため、イオンチャネル再構成系の構築に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度の計画として、これまでの研究で同定されたイオンチャネル群について、リン脂質との相互作用の検証を行なう。HEK293細胞にイオンチャネルを発現させ、回収後質量分析にて近接に存在するリン脂質分子種について同定を行なう。解析法については我々の有する高性能質量分析計を用い、既報(Gault et al., Nat. Methods, 2016)に準拠して行なう。また連携研究者の梅田眞郷教授が開発した蛍光脂質プローブを利用し(Emoto et al, J. Cell Biol., 2000)、リン脂質局在とイオンチャネルの共局在を検出する。さらに、イオンチャネルの再構成実験により、リン脂質とイオンチャネルの相関について、直接的に明らかにする。 続いてイオンチャネル‐リン脂質相互作用の意義解明を目指す。上記研究にて明らかになった相互作用の意義解明のため、細胞・個体レベルの解析を行う。これまでの研究にて、当該チャネルを内在的に発現する系として、上皮細胞および後根神経節が挙げられる。まずは細胞株あるいは急性単離した細胞を用いて、リン脂質フリッパーゼなどのリン脂質輸送体をノックダウンした際の、イオンチャネル電流評価を行う。続いて、リン脂質‐イオンチャネルの機能軸について、その生理的意義解明を目指す。上皮細胞では上皮特有の形態形成への寄与を、また後根神経節では痛覚感知やpH、温度などに対する反応性などについて、検討を行う。 以上の研究を通じて、リン脂質非対称分布およびそのゆらぎが様々なチャネルに対しどのような応答を引き起こすかを解明することにより、膜タンパク質‐脂質相互作用の意義、および膜を基軸とする生命現象についてのメカニズムが解明されることが期待される。
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Causes of Carryover |
当該年度の当初の計画と比較して、イオンチャネルの同定が順調に進んだため、繰越金が生じた。次年度では、当初の計画では計画していなかった、イオンチャネルの再構成実験を行う予定である。再構成実験により、直接的なイオンチャネル‐脂質相互作用の解明が期待されるが、タンパク質の大量調製、および再構成実験に必要な脂質を別途購入する必要があることから、次年度使用額を上記研究に充当する予定である。
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