2021 Fiscal Year Research-status Report
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18K19442
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
濱崎 洋子 京都大学, iPS細胞研究所, 教授 (10362477)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | 胸腺 / ハッサル小体 / 自己寛容 |
Outline of Annual Research Achievements |
ハッサル小体(HC)は、自己寛容を担うヒト胸腺髄質領域において、角化した髄質上皮細胞塊として観察される特徴的な組織構造である。組織学分野では古くよりよく認知されていたが、その免疫学的な意義はよく分かっていない。最近、HCがヒト遺伝性自己免疫疾患の原因遺伝子として発見されたAIRE依存性に形成されること、HCの過形成がある種のヒト自己免疫疾患で認められることが明らかとなり、近年改めて注目を集めるに至っている。本研究は、HCが炎症性因子を高発現するという申請者らが得た意外な知見と、独自に見出したHC過形成自己免疫疾患モデルマウスを用いて、胸腺髄質におけるハッサル小体の機能を解明し、HCが過形成を起こした際に、本来自己反応性T細胞を取り除くべき胸腺髄質が、HCを起点として自己応答の起点となる可能性を検証する。これにより、未だに不明な点の多い自己免疫疾患発症メカニズムの新たな一面を理解することを目的とした。 本研究においてこれまでに、HCを形成する髄質上皮が恒常的に細胞老化を来していること、また遺伝子の網羅的発現解析によってSASP因子と思われる炎症性サイトカインの発現を認めることが分かった。また興味深いことに、HC過形成マウスでは、胸腺内好中球とpDCが恒常的に高い活性化レベルにあること、逆に遺伝的にHCの低形成を呈するマウスではこれら抗原提示細胞の活性化状態が低いことが明らかとなった。また抗Gr-1抗体を投与し好中球をdepletionすると、pDCの活性化が抑制された。以上の結果から、定常状態においてはHCが胸腺内の抗原提示を促進すること、またHCの過形成によって胸腺内T細胞が恒常的に活性化される可能性が示唆された(Int Immunol. 2019)。この仮説とHCの過形成の生理的・免疫学的意義を検証するために、ハッサル小体で特異的に発現する分子炎症性サイトカインの中和抗体の投与、胸腺上皮特異的KOマウス作製を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
表皮角化細胞の分子マーカーのレポーターマウスを用いてHCを構成する胸腺髄質上皮細胞を純化する方法を確立し、遺伝子発現について網羅的に解析したところ、CXCL5やIL-1ファミリーなどの炎症性分子を高発現していることが明らかになった。また、HC過形成を呈する自己免疫モデルでは胸腺内好中球とpDCが活性化していること、HC低形成のマウスではこれらAPCの活性化状態が低いことが明らかとなった。以上の成果を論文として発表した(Int. Immunol. 2018)。引き続き、本自己免疫疾患モデルマウスに認められる胸腺内T細胞・B細胞の増加や活性化に果たす役割を明らかにするため、HCの過形成と自己免疫疾患を呈するマウスモデルが胸腺内で高発現する因子に対する中和抗体の投与、および、HCが高発現する分子に関しては、胸腺上皮細胞特異的に当該分子を欠損する遺伝子改変マウスの作製を進めている。また、HCの過形成がおこるとされる重症筋無力症の胸腺検体を用いて、同様の分子の高発現がみられるかどうか、検証を開始している。
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Strategy for Future Research Activity |
組織特異的遺伝子改変マウスができ次第、FOXN1-Creマウス(胸腺上皮特異的KOが可能)と交配し、胸腺でのT細胞活性化の抑制と、末梢での自己応答の抑制が見られるかを検討する。この解析を通じて、胸腺がある種の自己免疫疾患において自己応答の開始の場となる可能性について検証する。また、ヒト重症筋無力症の摘出胸腺検体を用いて、ヒトで同様の機構が存在する可能性を検証する。
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Causes of Carryover |
ヒト重症筋無力症で摘出された胸腺を用いてマウスで得られた結果を検証する予定であったが、コロナ禍で病院への出入りが制限されたため、一定数の症例を得るのに、に当初想定した以上に時間がかかり、さらに次年度に症例を積み重ねる必要性が生じた。また、前年度作製した中和抗体の効果が低かったため再度作製をおこなうこととなった。
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