2019 Fiscal Year Research-status Report
キメラ細菌の作製による病原細菌の宿主特異性決定機構の解析
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18K19446
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
堀口 安彦 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (00183939)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 気管支敗血症菌 / パラ百日咳菌 / 細胞融合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、病原性細菌の宿主特異性の決定機構を遺伝子レベルで解析することにある。この目的を達成するために、ヒトにのみ感染するパラ百日咳菌と広範な哺乳動物種を宿主とする気管支敗血症菌を融合させて、ヒト以外の実験動物に感染するキメラ細菌の作製を試みた。 パラ百日咳菌と気管支敗血症菌にトランスポゾンを用いてゲノムのランダムな位置にそれぞれゲンタマイシンとテトラサイクリン耐性遺伝子を挿入したトランスポゾンライブラリーを作製した。それぞれのライブラリーから任意に分離したシングルクローンを融合実験に供した。基本的に、ライソゾームを用いてスフェロプラスト化した菌をポリエチレングリコールで融合するプロトコールで、各試薬の濃度や反応時間を変えて最適条件を探索した。得られた条件で融合実験を繰り返した結果、約0.001%の割合で両薬剤耐性の変異株を100株以上単離することができた。また研究過程において、大量の寒天プレートによる培養と融合細菌のスクリーニングを可能にするため、ボルデテラ用の標準培地であるBordet-Gengou培地を改良した (Microbiol. Immunol. 2019;1-4. https://doi.org/10.1111/1348-0421.12742)。 これらの両薬剤耐性変異株を対象に、パラ百日咳菌と気管支敗血症菌それぞれに特異的な 複数種類の遺伝子を標的とした multiplex PCR を用いて変異体のゲノム構成を調べたところ、 得られた変異株の1割程度(供試菌59株中7株)で、ゲノム交雑の可能性を示す結果が得られた。またこれらの両薬剤耐性変異株には、通常には見られないコロニー性状(ドーム状から拡散性のある平滑コロニー)を示す株(供試菌98株中43株)が認められた。現在、これらの変異株の全ゲノム配列を解析しているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予想では、融合細菌の候補株が得られるまでに相当期間の予備実験が必要であると思われたが、実際には一定の割合で融合候補株がつねに回収でき、それを基準に条件検討ができたために予想よりも早期にプロトコールを確立することができたかに思えた。ところが、得られた融合候補株の解析を進めるにつれ、1)当初の予想よりも短いゲノム領域で組み換えが生じているらしいこと、2)耐性遺伝子の獲得によらない薬剤耐性化が予想以上に頻繁に生じること,さらに3)親株の気管支敗血症菌は、継代培養することによって細胞融合とは関係の無いゲノム構造に逆位が生じた変異株が発生することなどが問題点として明らかとなった。そのため、融合菌株、耐性遺伝子によらない薬剤耐性菌株,およびゲノムの逆位した菌株を区別するためにさらに詳細な検討が必要となり、これを実現するための解析方法の開発に時間を要し、現在も融合菌株の判別と単離に課題を残している。その結果、当初計画していた動物感染実験の期間内の実施は断念せざるを得ない状況となった。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、融合菌株、耐性遺伝子によらず薬剤耐性化した菌株,およびゲノムに逆位領域のある変異株の判別を全て次世代シークエンサーに頼ることは現実的ではないので、PCRを用いた簡便な識別方法の開発を急いでいる。今後は上記の方法の開発を進めるとともに,その検証を次世代シークエンサーで実施することによって、効率よく融合菌株を単離する方法を模索する。併せて,逆位領域のあるゲノムを持つ気管支敗血症菌の発生メカニズムを探り,できるだけその発生を抑制する条件を検討する。
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Causes of Carryover |
これまで当初の計画通りに、融合操作を経て2種類の薬剤に耐性を持つ複数の融合細菌の候補株を得ることができたが,予想に反して1)当初の予想よりも短いゲノム領域で組み換えが生じているらしいこと、2)耐性遺伝子の獲得によらない薬剤耐性化が予想以上に頻繁に生じること,さらに3)親株の気管支敗血症菌は、継代培養することによって細胞融合とは関係の無いゲノム構造に逆位が生じた変異株が発生することなどが問題点として明らかとなった。しかし、融合菌株、耐性遺伝子によらない薬剤耐性菌株,およびゲノムの逆位した菌株を区別するために次世代シークエンサーによる全ゲノム解析を進めるのは現実的でない。そこで、本年度は次世代シークエンサーの運用を中止して,上記の雑多な菌株を区別する簡便な方法の開発に注力し,多額の予算を費消する同シークエンサーの運用を次年度に繰り越すことにしたため、次年度使用額が生じることになった。次年度は本年度に開発した方法で候補菌株を区別してストックし,これらの全ゲノム解析を次世代シークエンサーを用いて一度に行い、得られたゲノム情報から菌株の性状を解析する予定である。
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Research Products
(10 results)