2018 Fiscal Year Research-status Report
味細胞オミクス新技術の開発:高カロリーセンシングとシグナル伝達分子ロジックの探求
Project/Area Number |
18K19653
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
二ノ宮 裕三 九州大学, 五感応用デバイス研究開発センター, 特任教授 (50076048)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 竜介 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (60380705)
安松 啓子 九州大学, 五感応用デバイス研究開発センター, 特任准教授 (50380704)
|
Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
|
Keywords | 脂質味 / 味受容伝達関連分子 / RNA-Seq法 / カロリー受容経路 / 高嗜好形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代の食の高脂肪・高甘味化は、エネルギー恒常性を破綻に導き、肥満者増加の主要因となっている。しかし、その脂質の味受容・伝達機序や高嗜好性形成の原理はまだ不明であり、その原理を解明し、食の健全化を導く手段を見出すことが喫緊の課題となっている。そこで、本研究は、その原理解明の糸口を見出す手段として、シングルセルRNA-seq法によるマウス味細胞の遺伝子発現情報の網羅的解析と味機能検索を連結させた新しい味機能分子の探索技術の開発を目指す。具体的には、RNA-seq法で得た脂質のカロリー受容とシグナル伝達候補分子群を標的に、味細胞における分子群の発現特性と応答への関与、味神経・脳への情報伝達、嗜好行動との連関を解析し、脂質の味と高嗜好性形成の謎に迫り、新たな味細胞オミクス技術の開発、確立、展開に挑む。そのため、課題1:脂質味受容関連候補分子群の味細胞における発現、課題2:脂質味受容関連分子群の味細胞・味神経・行動応答に基づく機能、を検索する。 平成30年度は、課題1では、シングルセルRNAシークエンス法により得られている脂肪酸輸送体経路上の分子群のなかで、リパーゼ、脂肪酸輸送体、カルニチンパルミトルトタランスフェラーゼなどの味細胞を含む組織における発現が確認された。課題2では、マウスの鼓索神経単一神経線維の各種味物質に対する応答の解析で、甘・酸・塩・苦・うま味に最も強く反応する線維以外に脂肪酸に最大応答を示す線維が存在し、かつ甘味・うま味に応答する線維も脂肪酸に応答することが判明した。GPR120欠損系マウスでは、脂肪酸に最大応答を示す線維が1/4程度まで減少し、舌前部から起こる味情報のうち、脂肪酸特異的味情報を伝える線維は主にGPR120受容体を介して起こっている可能性を示唆する結果が得られている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課題1では、シングルセルRNAシークエンス法により、脂肪酸受容体及び脂肪酸輸送体の両経路に発現する遺伝子・分子群の存在の可能性が得られており、過去に知見のない脂肪酸輸送体経路に働く分子群が見出されている。そのなかで、リパーゼ、脂肪酸輸送体、カルニチンパルミトルトタランスフェラーゼなどの味細胞を含む組織における発現が確認されており、今後の展開の基盤が形成されていると思われる。 課題2では、脂肪酸に対する味受容が他の味と独立するのであれば、当然、脳に伝えられる味神経情報も独立することが考えられるが、本研究により、マウスの鼓索神経単一神経線維には、甘・酸・塩・苦・うま味に最も強く反応する線維以外に脂肪酸に最大応答を示すものも存在することが判明し、その基盤が確立された。また、甘味・うま味に応答する線維も脂肪酸に応答するという発見は、脂肪酸の嗜好性をもたらす要素に関連する関わる重要な情報として重要と考えられる。加えて、GPR120欠損系マウスによる解析で、脂肪酸特異的応答線維が著しく減少することから、舌前部から起こる味情報のうち、脂肪酸特異的味情報を伝える線維は主にGPR120受容体を介して起こることが示唆される。また、味覚嫌悪学習による短時間リック法による解析で、GPR120の欠損により、脂肪酸とうま味の味の識別性が減弱するという結果が得られており、GPR120受容体からおこる脂肪酸情報が脂肪酸と他の味との識別に深く関与することが示唆されている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は計画通り進捗している。課題1では、シングルセルRNAシークエンス法で得られた候補分子群で脂肪酸受容体と輸送体の二つの経路の存在が甘味・うま味受容に関連するT1R3発現細胞で見出されているが、舌前部支配の鼓索神経応答の解析で得られている結果とは一致しない部分もある。これは、シングルセルRNAシークエンス法に用いた味細胞が舌後部にある有郭乳頭味蕾から得られたものであることに由来する可能性がある。従って、課題2における神経応答の解析を舌後部支配の舌咽神経に広げるとともに、T1R3関連以外のアミノ酸受容に関わる分子群をさらに広く詳細に解析する必要がある。 課題2では、当初の計画通り、前述の脂肪酸受容情報経路について舌咽神経線維の味応答解析を行うことに加え、脂肪酸の受容体経路と輸送体経路に関わる細胞内経路の機能解析を行う必要がある。特に、後者の経路に連携する脂肪酸輸送体分子群の関与については、各種阻害剤を用い、味応答変化を基に検索する。また、特異的経路についてはGPR120-KOマウス及びCD36阻害剤を用いて、単一神経線維の味応答解析によりさらに検索する。同様に、甘味とうま味とのオーバーラップによる味の弁別性や嗜好性についても味覚嫌悪学習や短時間リック法により検索する。味細胞の味応答解析にはT1R3-、T1R3-KO-GFPマウスを用いGFP蛍光標識を基に味細胞を同定し、味応答パターンから、脂質特異的、甘味うま味重複型の細胞の存在を検証し、標的分子との対応を阻害薬などの効果で検索する。味細胞と味神経線維応答の比較により、脂質味情報経路とその嗜好・味弁別行動における役割を明らかにする。
|
Research Products
(25 results)