2018 Fiscal Year Research-status Report
アスピリンの副作用軽減を目指した新規大腸がん化学予防法
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18K19693
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Research Institution | Kyoto Prefectural University of Medicine |
Principal Investigator |
酒井 敏行 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20186993)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
友杉 真野 (堀中真野) 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (80512037)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | がん予防 / 大腸がん / アスピリン / 併用 |
Outline of Annual Research Achievements |
大腸がんは部位別罹患数・死亡数のいずれも本邦で上位に位置しており、実践的な予防法の確立が求められている。現在、最も期待されている大腸がん化学予防薬がアスピリンであるが、一定の副作用も問題視されている。そこで、その服用量の低減を目指し、併用薬剤との組み合わせによる予防法の可能性について検討を行うこととした。本研究では、アスピリン併用薬の候補として潰瘍性大腸炎の治療薬であるメサラジンに着目した。メサラジンは、観察的疫学研究において潰瘍性大腸炎に合併する大腸がんを予防する可能性が報告されており、また、化学発がんモデル動物においても大腸がん予防効果が報告されている。本研究は、基礎研究により、新規大腸がん化学予防法「アスピリンとメサラジンの併用」の有効性の検討、ならびに、その作用機序を明らかにすることで、「大腸がん化学予防」研究の一端を担うことを目的とする。 平成30年度は、ヒト大腸がん細胞、マウス腸管ポリープ由来細胞を対象とし、二剤併用効果の検証と、その作用機序について解析を行った。まず、併用による細胞増殖抑制効果の検討を行った結果、顕著な併用効果が認められた。さらに「がん抑制遺伝子RBの活性化」の有無について検討を行うため、2種類のヒト大腸がん細胞を対象に細胞周期の制御について検討を進めた結果、G1期での停止作用が共通して認められた。G1期細胞周期関連分子の発現変化について検討した。その結果、二剤併用時にcyclinD1の発現減少とRBの活性化が認められた。cyclinD1のmRNA発現量への影響についても検討した結果、1種類の細胞株では二剤併用時に減少が認められた。もう一方の細胞株では、タンパク質レベルでの分解を促進している可能性を示す結果が得られた。上記の結果から、細胞ごとに、薬剤に対する分子機序の異なる可能性が考えられるため、さらに慎重に検討を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、3種類のヒト大腸がん細胞、2種類のマウス腸管ポリープ由来細胞を対象とし、アスピリンとメサラジンの併用効果の検証と、その作用機序について解析を行った。まず、WST-8アッセイによって、単剤および併用による細胞増殖抑制効果の検討を行った。その結果、顕著な併用効果が全ての検討対象の細胞株において認められた。さらに「がん抑制遺伝子RBの活性化」によるものか否か評価検討を行うため、2種類のヒト大腸がん細胞を対象に細胞周期や細胞死(アポトーシス)の制御について検討を進めた結果、細胞周期のG1期での停止作用が認められた。細胞株によっては、さらにアポトーシス誘導作用が弱いながらも有意に認められた。Western blotting法により、G1期細胞周期およびアポトーシス関連分子の発現変化について検討した。その結果、アポトーシス関連分子の発現については、検討した範囲では十分に確認できなかったが、二剤併用時すなわちG1期停止が認められた条件において、cyclinD1の発現減少とRBの活性化が認められた。リアルタイムRT-PCR法により、cyclinD1のmRNA発現量への影響についても検討した結果、1種類の細胞株では二剤併用時に減少が認められた。もう一方の細胞株では、タンパク質レベルでの分解を促進している可能性が考えられたため、プロテアソーム阻害剤MG132を前処理し、二剤を添加したところ、cyclinD1のタンパク質レベルの発現減少が抑えられた。上記の結果から、細胞ごとに異なる遺伝子の変異などによって、薬剤に対する分子機序の異なる可能性が考えられるため、さらに慎重に検討を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
1) 培養細胞を用いた併用効果の検討 昨年度に引き続き、ヒト・マウス培養細胞を用いたin vitro実験系での、アスピリンとメサラジンの二剤併用効果の検証と、作用機序について解析を行う。ヒト大腸がん細胞、マウス腸管ポリープ由来細胞に加えてマウス大腸がん細胞も対象とした検討も進める。さらにコロニーフォーメーションアッセイによって、より長期的観察により、in vitro実験系で二剤併用効果を検証する。昨年度までの実験結果から、この二剤併用による細胞周期停止作用にcyclinD1の発現減少が関与していると考えている。このcyclinD1の発現に対する二剤の作用点の解明を試みる。具体的には、mRNAレベルでの発現減少も認められた細胞株に対しては、さらにcyclinD1プロモーター活性への影響の有無を検討する。タンパク質レベルでの発現減少の促進効果が認められた細胞株に対しては、プロテアソーム依存的なタンパク質分解経路への二剤の影響を検討する。
2) 大腸化学発がんモデルマウスを用いた併用効果の検討 家族性大腸腺腫症の原因遺伝子であるAPCを破壊した遺伝子改変マウス(APCminマウス)を用いる。このマウスは短期間で小腸を中心にポリープを発症する。このモデルマウスに対し、アスピリンとメサラジンを一定期間経口投与し、ポリープ発生抑制効果について検討する。さらにマウスから血液や大腸・小腸・腸間膜リンパ節などを回収し、RB活性や炎症性サイトカインの産生や腸管マクロファージなど免疫細胞に対する二剤併用の影響を評価する。
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