2018 Fiscal Year Research-status Report
ヒトiPS細胞を用いた海産物中ヒ素摂取による脳機能障害に対する革新的評価法の開発
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18K19708
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Research Institution | St. Marianna University School of Medicine |
Principal Investigator |
高田 礼子 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 教授 (30321897)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
人見 敏明 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 准教授 (90405275)
曹 洋 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 助教 (70793751)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | ヒ素中毒 / 無機ヒ素 / メチル化ヒ素化合物 / 血液脳関門 / 脳機能障害 / 化学構造 / 化学価数 / iPS細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒ素暴露による脳機能障害は、1960年、西日本を中心に発生した森永ヒ素ミルク事件において、亜急性ヒ素患者の一部に認められ、60年経過後も後遺症が残った。近年、バングラディシュや中国では、慢性ヒ素中毒発生地域において脳機能障害や認知機能への影響が確認された(WHO、2016)。これらの急性と慢性ヒ素中毒の原因は無機ヒ素5価(iAs(V))であり、一部、バングラディシュの事例では無機ヒ素3価(iAs(III))も原因であった。一方、経済的先進国では、環境整備や管理の充実により慢性ヒ素中毒は発生しないと推測され、食事からのarsenosugarsやarsenolipidsが想定される最大のヒ素暴露であった。しかし、WHO/FAOは、発癌予防に加えて、妊婦・乳幼児への無機ヒ素暴露による脳機能障害や認知機能への影響を危惧し、米からの無機ヒ素暴露に対して法的規制による暴露軽減を目指している。 従来、有害物質や医薬品の暴露・摂取からの脳機能への影響評価は、げっ歯動物を用いた実験が基本であったが、動物愛護の視点から実施は難しくなり、一方、in vitro実験はヒトに外挿できる可能性は極めて低いとの推測があり、研究の実施には課題が山積している。 本研究は、ラットの初代培養細胞を用いた血液脳関門(blood-brain barrier: BBB)機能を有する試験システムを用いた。検証するヒ素は、急性と慢性ヒ素中毒において脳機能障害を発生した無機ヒ素、そして、その第一代謝物(モノメチル化ヒ素化合物;MMA(III), MMA(V))を用い、BBB機能の成熟期と未成熟期にそれぞれ暴露し、BBB機能・構造への影響を検討した。その結果、ヒ素化合物は化学構造と化学価数の違いによりBBB機能・構造への影響が生じ、成熟期と未成熟期での影響にやや異なる機序が存在することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で用いたBBB機能評価システムは、BBBの3種類の構成細胞である脳毛細血管内皮細胞、周皮細胞(ペリサイト)及び星状神経膠細胞(アストロサイト)から成り立っており、血管腔側を構成する脳毛細血管内皮細胞とペリサイトから成る構造体におけるBBBの機能・構造の評価と、脳実質側のアストロサイトへの影響を評価できる。本年度は、血管腔側にヒ素化合物を添加し、脳毛細血管内皮細胞とペリサイトへの細胞障害によるBBB機能への影響を評価した。なお、BBBの成熟期及び未成熟期の設定は、バリア機能の指標である経内皮電気抵抗(Transendothelial electrical resistance: TEER)の値に基づいて区別した。 三段階の濃度設定をしたiAs(III)、iAs(V)、MMA(III)、MMA(V)をBBBの成熟期及び未成熟期において血管腔側に一回暴露し、4種類のヒ素化合物がBBB構造を透過する差異について暴露後のTEERの値にて評価した結果、BBB構造の脳毛細血管内皮細胞とペリサイトの細胞群への毒性は、MMA(III)>iAs(III)>iAs(V)>MMA(V)の順で強く、とくにMMA(III)が特徴的であった。これらの現象は、濃度依存的に出現し、成熟期と未成熟期に共通して認められた。さらに、ヒ素暴露によるBBB機能・構造の変化について、免疫染色とウエスタンプロットによりタイトジャンクションへの影響指標であるClaudin-5、ZO-1を評価した結果、TEERの結果に対応して顕著に変化していることが確認された。成熟期と未成熟期におけるヒ素化合物の暴露からの影響は、化学構造と化学価数が重要であることなど、これまで報告されていない新たな知見が得られたことにより、研究はおおむね順調に進展していると判断された。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、ヒ素化合物は化学構造と化学価数の違いによりBBB機能・構造への影響が生じること、さらに、成熟期と未成熟期での影響の機序がやや異なることを明らかにした。次年度においては、同一の継続実験において、ヒ素化合物のアストロサイトへの影響を評価する。脳毛細血管内皮細胞とペリサイト、及び、アストロサイトへの影響に関する情報を総合して評価することにより、ヒ素暴露とBBB機能への影響との関係がより深く解明されるものと考えている。とくに、BBB未成熟期のヒ素暴露による影響については、国際的にも情報が限られていることから、重点的に研究を行う。現在の人類は、特別なヒ素汚染地域に生活しなくとも、食事から無機ヒ素、メチル化ヒ素化合物、有機ヒ素化合物(arsenosugars、arsenolipids)を摂取しており、妊婦やBBB機能が未発達の乳幼児も例外ではない。国際的に無機ヒ素暴露は生活習慣病の発症及び増悪因子として確認され、脳機能障害や認知機能への影響も示唆されており、本研究活動による科学的根拠の獲得は重要と考えている。さらに、ラットの初代培養細胞から作製するBBB機能評価システムより、高度化されかつヒトに外挿可能なヒトiPS細胞を用いたBBB機能評価システムを構築することは、重要な研究であると認識している。
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Causes of Carryover |
理由:BBB機能の評価システムを用いた予備検討に時間を要したため、次年度使用額が発生した。 使用計画:次年度交付される助成金と合算して、ヒ素化合物のアストロサイトへの影響を評価するための細胞培養に必要な試薬と消耗品に使用する。
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Research Products
(3 results)