2018 Fiscal Year Research-status Report
セリンによるミトコンドリア制御を基軸とした細胞内代謝ネットワークの機能的意義解明
Project/Area Number |
18K19748
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
古屋 茂樹 九州大学, 農学研究院, 教授 (00222274)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | アミノ酸合成不全 / ミトコンドリア / セリン / 電子伝達系 / 細胞死 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、合成酵素遺伝子変異による非必須アミノ酸セリンの欠乏により惹起される細胞死・個体致死という重篤な表現型の根幹の機序としての「ミトコンドリア機能不全仮説」を検証し、さらにその予防に資する栄養療法の開発を到達目標としている。 今年度は研究代表者が作製、解析してきたセリン合成不全疾患モデル(細胞および個体レベル)について以下の知見を得た。 まず、セリン合成酵素Phgdh欠損マウス胚性線維芽細胞(KO-MEF)を培地セリン制限条件で培養し細胞内セリン欠乏を導くと、セリン添加条件に比べ、ヘム合成系、ミトコンドリアの融合・分裂制御因子、ミトコンドリア生合成のマスター調節因子等のミトコンドリア関連遺伝子の有意な発現増加を見出した。これらの結果はミトコンドリアの増加または機能亢進を示唆していたため、ミトコンドリア特異的な蛍光色素MitoGreenで量的変化と、ミトコンドリア膜電位感受性色素MitoRedでその機能的変化について評価を行った。その結果、セリン欠乏により細胞あたりのミトコンドリア量の減少、ならびに膜電位低下を確認した。すなわち、セリン制限条件下のKO-MEFではミトコンドリア機能が低下しており、その代償としてこれらの遺伝子発現応答が起こっていると推定された。次に、ミトコンドリアの機能(膜電位)低下に関与する分子変化について、電子伝達系を構成する複合体を中心に探索を行った。その結果、特定複合体の構成タンパク質が減少し、機能低下に至っている可能性を見いだした。電子伝達系の変化について現在さらに詳細な解析を行っている。これらの成果に加え、セリン欠乏から細胞死に至る経路として、ミトコンドリア経由のアポトーシス経路について、上流制御因子と実行分子の遺伝子発現増加、抑制因子の遺伝子発現減少を確認し、タンパク質レベルの確認を行っている。個体モデルでも同様の解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
セリン欠乏によるミトコンドリアの量的減少と膜電位低下を確認でき、その一因としての電子伝達系複合体構成成分の変化を同定できたことは予想外の進展であった。細胞死に関わる経路についても同定が進んでいる。今後、それらの変化が起こる機序と、病態生理学的な意義の理解に向けて解析を進める。一方で個体レベルの解析はやや遅れたため、次年度以降強化する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、以下の項目について検討を行う予定である。 1)セリン合成能欠損KO-MEFにおける電子伝達系構成成分のセリン欠乏による量的変化の詳細な解析 2)セリン、グリシン、ヘム動態とそれらの変化の連関、発症機序の解析 3)脳特異的Phgdh KOマウス脳でのミトコンドリア機能変化の探索 4)アルツハイマー病モデルマウスでのセリン合成系ならびにミトコンドリア機能変化の探索
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