2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K19777
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
谷内江 望 東京大学, 先端科学技術研究センター, 准教授 (60636801)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 公開鍵暗号 |
Outline of Annual Research Achievements |
RSA暗号等の現代公開鍵暗号の安全性は、巨大数の素因数分解が困難であることを基礎として、秘密鍵からの公開鍵生成→公開鍵による暗号化→秘密鍵による復号化に高い一方向性があることによって保障されている。一方で、理論的には量子コンピュータが素因数分解を高速に行えることが示されており(Shorの定理)、我々は非ノイマン型コンピュータ時代の新しい公開鍵暗号システムを考える必要がある。本研究では、物理空間における複雑性の高いDNA分子群の「空間的拘束を保った不可逆な切断」を基礎とした新たな公開鍵暗号システムBSGが、あらゆる計測技術、計算機の介入による情報の窃盗に対して極めて頑健であることを提案する。BSG暗号では、情報の受信者は DNAバーコード二つが連結されたものを大量に合成し、この連結DNAバーコード群の情報を秘密鍵とする。次に、それぞれをコンテナ内に包埋し、コンテナ内で連結DNAバーコードが切断されるような反応後、この連結バーコードが切断されたコンテナ群を公開鍵とする。情報の送信者は公開鍵を受け取り、ランダムにコンテナを1つ選び、ここに包埋されていた切断バーコードペアをDNAシークエンシングによって解読する。 一つは平文の暗号化キーとして利用され、もう一つは暗号文とともにワンタイムパスワードとして受信者に送信される。受信者はバーコードの組合せ情報を秘密鍵として持つため、ワンタイムパスワードに対応する暗号化キーを知ることができ、暗号文を安全に復号できる。本年度は、その有効性を実証するものであるが本年度は以下の項目について進めた:
Aim 1: コンテナ型BSG暗号システムの概念実証実験 Aim 2: 環状DNAチェーン化技術の開発
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Aim 1: コンテナ型BSG暗号システムの概念実証実験 酵母細胞と部位特異的DNA組換酵素反応を用いてBSG暗号システムの概念証明実験を進めた。これを実現するためのバックボーンDNAベクターの構築を行い、このDNAベクターに連結DNAバーコードがを搭載したものについて複雑性の高いDNAライブラリーが構築可能であることを示した。さらにこれをクローン化した数例について酵母細胞内で部位特異的DNA組換酵素Creの誘導発現依存的に不可逆な連結DNAバーコードの切断が引き起こせることを示した。
Aim 2: 環状DNAチェーン化技術の開発 細胞等を利用したコンテナ型BSG暗号における公開鍵の全体観測性は現代技術に対しては十分に低いものが実現できると考えるが、完全ではない。また細胞を利用するという点において実用化のハードルが高い。これまでに連結バーコードを持つ環状DNAベクター分子が試験管内においてもCreによって分断できることを確認した。2つに分断された環状DNAは分子量が小さくなるため、反応が電気泳動によって確認できる。しかしながら、これはDNA分子が空間的に完全に分離されたときのみである。DNA分子は通常溶液中では多様な構造を取り、ここにはスーパーコイル構造と呼ばれるもの等、複雑にねじれたものが含まれる。これまでに、環状DNA分子がねじれたまま、DNA組換え酵素による分断反応に至ると、理論的には分断された一つの環状DNA分子がもう一つの環状DNA分子の環の中を通過し、空間的に分離されないことを発見した。これに関連して環状DNAチェーンを精製できるような新しいバックボーンDNAベクターの構築および、環状DNAチェーン構造の形成を触媒できるようなCre改変体Cre111についてクローニングを進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
Aim 1について、実際にDNAマイクロチップを用いた超並列DNA合成によって複雑な連結DNAバーコードライブラリーを合成し、酵母細胞を用いた系についてBSG暗号システムの概念実証を行う。具体的に、連結DNAバーコードライブラリーを酵母細胞集団に導入、DNA組換え酵素によって全ての細胞それぞれにおいて不可逆に各DNAバーコードペアを切り離し、この細胞集団を公開鍵とする。これを公開鍵として受け取った情報送信者が選択培地にその一部を塗布し、形成されたコロニーから1つをランダムに採取することで、1つのDNAバーコードペアの情報をDNAシークエンシングによって解読、暗号送信を行い、複合するという一連のプロセスをデモンストレーションする。
Aim 2について、昨年度までに作成したバックボーンDNAベクターおよびCre111変異体などを用いて、効率的に環状DNAチェーン構造の不可逆な作成と精製が可能か検討実験を進め、これの実用可能性について見極める。
以上の結果までをまとめて国際論文誌に新しいDNAを用いた公開鍵暗号手法として報告する。
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Causes of Carryover |
180円の残額が生じたが、来年度消化する。
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