2018 Fiscal Year Research-status Report
文字を書くときの座標系はどのように決定されるのか?
Project/Area Number |
18K19816
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Research Institution | Dokkyo Medical University |
Principal Investigator |
高橋 俊光 獨協医科大学, 医学部, 助教 (00250704)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 身体表象 / 書字 |
Outline of Annual Research Achievements |
文字を様々な対象物に書こうとするとき、書字の座標系はどのように決定されるのだろうか?書き手に対する書字面の向きを様々に変えて書字する我々の予備実験により、文字を「自分で見る」結果になるよう書字する群と、「他人に見せる」結果になるよう書字する群とに被験者が2分されることが分かった。このことは、文字の運動表象を表出する機構が複数あることを示している。そこで、本研究では、文字を書くときの書字面に応じた座標系の決定機構を明らかにすることを通して、自己身体表象の神経基盤の一端を明らかにすることを目的とした。 初年度である当該年度は、方法論の構築をめざした。まず、1.被験者がどちらの群に属するかを調べるとともに、書字面の身体に対する角度に依存した文字表象の表出を定量的に測る実験系を構築した。被験者は試行毎にヘッドホンから指示される書字面(前面または後面)に指示された文字を書く課題を想定した。ここでは、ブロック(90試行)毎に後面の書字板の角度を変えるようにした(0°~90°)。 ついで、2.書字姿勢、空間的注意、運動主体感等の条件を変えることで、両群の書字機構における、書字の座標系選択に先行する文字視覚イメージの決定要因を探る実験系の構築を進めた。具体的には、例えば、右手でペン入力装置に書字をすると、遅延を持って、ペン先の動きが点図装置に出力され、左手のひらで識字するものである。遅延を調整し運動主体感を消失させれば、右手の書字については、「対面の人物の左手のひら」に書字するようイメージし、次いで書かれた文字を左手のひら認識するようになることが期待できる。この仕掛の元、視覚的注意(視線)を右手あるいは左手に向ける条件で、識字課題を行う。これにより、視覚イメージの各条件の影響を、鏡文字群および正文字群について調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的を達成するための、1.書字面の身体に対する角度に依存した文字表象の表出を定量的に測る実験系の構築と、2.両群の書字機構における、書字の座標系選択に先行する文字視覚イメージの決定要因を探る実験系の構築を、それぞれ進めることができた。 具体的には、1の実験系においては、書字板としてペン入力装置を用い、入力された書字の軌跡をリアルタイムでパソコンに入力するプログラムを開発し、書字開始時間、書字時間、筆跡等を記録できるようにした。また、ビデオカメラで被験者の書字の様子を撮影し、リアルタイムあるいは映像遅延装置による遅延をもって、被験者のヘッドマウントディスプレイに映像をフィードバックすることで、視点の移動および運動主体感の有無の条件を設定できるようにした。 2の実験系においては、書字板としてペン入力装置を用いるのに加え、手のひらで識字するための点図装置を導入した。これらを用いて、片方の手でペン入力装置に書字をすると、遅延を持って、点図装置に置いたもう片方の左手のひらで識字できるようにした。これに固視の位置や遅延の大小などの条件を設定することで、空間的注意、運動主体感等の条件を変え、両群の書字機構における、書字の座標系選択に先行する文字視覚イメージの決定要因を調べることができるものと考えている。 当該年度は、一般被験者を募集しての本格的なデータ収集には至らなかったが、初年度の準備段階としては順調に進展したものと自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に開発を進めた、書字姿勢、空間的注意、運動主体感などの様々な条件を変えた心理物理実験を実施することにより、自己または他者の視点での書字機構を探っていく。ここで検証する仮説は、「自分で見る」結果になるよう書字する群では、筆順などの触運動表象の表出に、書き手の視点から見た身体中心座標系に視覚イメージが強固に対応しており、この投影された視覚イメージをなぞるように触運動表象が手中心座標系に適するよう座標変換され、表出されるとし、一方、「他人に見せる」結果になるよう書字する群では、触運動表象は手中心座標系に強固に対応しており、視覚イメージや身体中心座標系とは関係は弱く、書字面上に触運動表象が常に正字まま手運動座標系を通して表出されるとする。 また、fMRIを用いて、自己または他者の視点での運動表象表出過程の自己身体表象の神経基盤の一端を明らかにすることを目指す。例えば、書字面を身体の向き、反対向き、その中間の向きに設定し、自然に書く場合、他者に見せるように書く場合、意識して鏡文字を書く場合等の条件の課題を課した場合の脳活動を収集し、両群比較と郡内の条件間比較を行う。 さらに、近年、空間的注意の有無や運動主体間の有無により、定常状態視覚誘発電位や事象関連電位といったある種の脳波で有意差が見られるという報告が相次いでいることから、課題遂行中の脳波計測を計画したい
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Causes of Carryover |
当該年度10月に所属機関を異動後しばらくは予算の移管・執行可能時期が不透明な期間が続いたため、研究をスタートさせるために、とりあえず、点図装置や映像遅延装置、ヘッドマウントディスプレイ、制御用コンピュータなどの機材は、他研究者等からの借用や他の実験用のものの流用にて、一部実験系を試験的に仮構築したため、次年度使用額が大幅に発生した。これらの機材を次年度予算で購入・リプレースした後、速やかに本実験をスタートさせる予定である。また、同じく年度途中での異動のため、当該年度中のfMRI実験施設の使用が困難になったため、これに関する予算も次年度以降に使用予定である。
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