2018 Fiscal Year Research-status Report
Prediction of recovery of microbiome after perturbation by the combination of mathematical analysis and metagenomics
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18K19846
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
高見 英人 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海底資源研究開発センター, 上席研究員 (70359165)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹本 和広 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 准教授 (40512356)
大久保 卓 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海底資源研究開発センター, ポストドクトラル研究員 (70749275)
桑原 知巳 香川大学, 医学部, 教授 (60263810)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 乳児 / メタゲノム解析 / 腸内細菌叢 / 数理解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
誕生直後の子供の腸内は無菌であるが、生育と伴に腸内細菌叢が形成される。乳幼児期は成人と比べ抗菌剤を投与される機会が多く細菌叢への影響も大きいが、菌叢の乱れが成長後の様々な疾患へつながることが分かっている。腸内細菌叢はいわゆるメタ16S解析によって調べられているが、コピー数やPCRバイアスが問題となる方法での菌叢組成解析には疑問な点が多い。従って、腸内細菌叢の変化が及ぼす健康への影響を議論するには菌叢変化を正しく知ることが大前提となり、加えて菌叢の機能的な変化の把握無しに健康への影響や菌叢回復プロセスの理解は困難である。そこで本研究では、香川大学医学部の倫理委員会で使用が承認された一卵性双生児の腸内細菌叢メタゲノム配列データ、顕微鏡観察に基づく菌数や菌叢染色所見、単位糞便当たりの抽出DNA量などを基礎データとして用いた。今回のサンプルでは、双子乳児の1名のみに抗生剤が投与されているため、遺伝的背景が同一の他の乳児が比較対象となる。まず、双子乳児の生後27日-171日目までの各7サンプルのメタゲノム配列から、生物種を問わずゲノム中の存在数が一定でコピー数が一部の例外を除き単一のリボソームタンパク質に基づく菌叢解析を行った。その結果、メタ16S解析では、抗生剤未投与の乳児の細菌叢も不安定で本来割合が高いとされるビフィズス菌群の割合が低かったが、リボソームタンパク質による解析では、その割合が非常に高く菌叢も安定していた。また、抗生剤を投与した乳児の菌叢は1回目の投与では大きな撹乱が観察されず、3週間程度で回復したが、2回目では細菌数が1/100に減少、ビフィズス菌群もほぼ駆逐され細菌叢は大きく変化した。3回目の投与では、細菌数と菌叢回復に1ヶ月以上を要し、回復後の菌叢も異なっていた。この結果は顕微鏡所見ともよく一致したことから、正しい菌叢変化を捉えることができたと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、まず抗生剤投与の有無が異なる一卵性双生児の生後27日-171日までのそれぞれ7サンプルのメタゲノム配列データを菌叢の生理代謝ポテンシャルやリボソームタンパク質に基づく菌叢組成解析が可能なMAPLEシステムに供試した。その計算結果に基づき各機能モジュールの充足率(MCR)やモジュールが100%充足された際のアバンダンス、メタゲノム中に見出されたリボソームタンパク質とその由来生物種組成を数値化し、本研究に用いるデータセットを作成した。次に、双子乳児の腸内細菌叢の組成比較を行い、抗生剤無投与の乳児の細菌叢は安定で、主にビフィズス菌群からなるアクチノバクテリアが菌叢全体の60-80%を常に占めていることがわかった。これに対し、抗生剤を投与した乳児の細菌叢は、投与回数によって細菌叢への影響が異なり、1回目の投与(70-74日)では大きな撹乱が観察されなかったが、2回目(103-105日)では菌叢に大きな変化が見られ、3回目(134-137日)以降菌叢回復までに1ヶ月以上を要した。一方、菌叢組成を用いた主成分分析を行ったところ、1回目の抗生剤投与後、一見菌叢組成的には回復し安定に維持されていると思われた生後99日目の細菌叢はそれ以前の細菌叢とは大きく異なることが判明した。この事実からさらに菌叢の多様性解析、微生物とヒト間、微生物間の協力度や競争度、また菌叢を構成する生態系のreactivity(摂動の増幅のしやすさ)を解析したところ、生後99日目の菌叢では、協力度や競争度の低下のみならず、reactivityが高く非常に不安定な生態系であることが示唆された。このように、リボソームタンパク質による菌叢解析の有効性の実証に加え以前の解析では得られなかった新知見が得られており、本研究は概ね順調に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのリボソームタンパク質に基づく腸内菌叢の組成を用いた解析から、一見菌叢組成的には回復し安定に維持されていると思われた生後99日目の細菌叢は、実は不安定な生態系であることが示唆された。そこで、菌叢が持つ機能的特徴からも同様の傾向が見られるかどうかを検討する。つまり、抗生剤無投与の乳児の菌叢は安定なため、菌叢が有する機能的ポテンシャルにも大きな変化がなく安定していることが予想されるが、抗生剤が投与され大きな変化が生じた菌叢では機能ポテンシャルにも大きな変化生じていると予想される。そこで、今後は菌叢組成データを用いた場合と同様に、MAPLEから得られた様々な生理代謝機能のうち全てのサンプルで100%充足したモジュールのアバンダンスパターンを用いて解析を行う。この際のアバンダンス値は、各メタゲノム中に見出された全リボソームタンパク質数で補正された単位リボソームタンパク当たりの相対値であるが、この絶対値自身にはあまり意味がないため、各サンプル間の比をデータセットに用いた解析を行ってその結果の意義を検討する。 これに加え、新たに香川大学から年齢、性別や抗菌剤投与の有無が異なる乳児の腸内細菌叢のメタゲノム配列サンプルが3例ずつ(抗生剤投与:3例、未投与3例)提供される予定なので、これらのサンプルを同様に解析し、先の解析結果との比較ならびに細菌叢の動態変化の普遍性や回復予測法についての検討を行う。
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Causes of Carryover |
当初解析用端末としてMac Pro 8コアを購入予定であったが、本研究で使用するMAPLEシステムが搭載されたサーバのノード増設が緊急に必要となったため、MacPro 8コアの購入を取りやめた。MacPro 8コアは次年度予算で購入する。
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Research Products
(4 results)