2021 Fiscal Year Research-status Report
海洋生態系の持続的な食物連鎖の維持と窒素・炭素安定同位体効果の関係
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18K19862
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
相田 真希 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(地球表層システム研究センター), グループリーダー (90463091)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石井 励一郎 総合地球環境学研究所, 研究基盤国際センター, 准教授 (40390710)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | 同位体効果 / アミノ酸組成 / 窒素・炭素安定同位体比 / 同位体濃縮 / 代謝理論モデル / マイワシ / カタクチイワシ / 給餌実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度に実施した給餌実験から得られた、筋肉、生殖腺、脂肪、心臓、脳などの約700検体について、研究協力者:兵藤不二夫 准教授(岡山大学)のもとで炭素・窒素安定同位体比の分析を行った。このうちマイワシのメスの生殖腺指数に対する筋肉、肝臓、卵巣の窒素同位体比を解析したところ、筋肉、肝臓の同位体比に変化が見られなかった一方で、卵黄形成が進むにつれて卵巣の同位体比が上昇する過程を捉えることに成功した。この事実から、自然界のマイワシは、索餌場から産卵場へ移動する間に獲得した栄養を筋肉などに蓄積し、卵巣の成長には摂取栄養と共に蓄積栄養を効率的、安定的に生殖腺に配分し利用していると推察された。 また、タンパク質合成・分解素過程の代謝理論モデルに、窒素の大きな同位体効果が想定される2つの素過程([1]アミノ酸を用いたエネルギー生産の際に肝臓で起こるグルタミン酸の脱アミノ過程;[2]卵巣成長時の卵黄タンパクが生産される際の肝臓でのアミノ酸の除去速度の上昇)を明示的にサブモデルとして取り入れ、魚類の代謝時の同位体濃縮効果が生殖腺発達時期における器官間の窒素移動特性を反映できるように改良した。その結果として以下の2点が定性的に示唆された:1)単位時間あたりの[運動のためのエネルギー要求量]/[採餌量]の増大は、肝臓でのグルタミン酸のαケトグルタル酸への代謝の割合を増大と、アミノ酸プールを介して筋肉の窒素同位体比の増大をもたらすこと;2)性成熟後の繁殖期のメスでは、1)の傾向は、肝臓で生産される卵黄蛋白の前駆体を介して、卵巣の窒素同位体比の上昇を引き起こすこと。このことは、実験結果を整合的に説明しうるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
炭素・窒素安定同位体比の分析は岡山大学で実施しているが、コロナ感染拡大に伴う事業縮小により、同位体測定前に行う脱脂処理作業や測定が当初計画通り進めることが困難となり大幅に遅延した。
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Strategy for Future Research Activity |
カタクチイワシとマイワシの給餌実験から得られた700試料に渡る体組織試料について、全ての炭素・窒素安定同位体比の分析が完了した。マイワシの卵巣発達ステージにおける窒素安定同位体比の変化を捉えることができたが、他の体組織でどのような変化が見られるのか、引き続き解析を実施する。また、ターンオーバータイムが数カ月程度と長いマイワシと、ターンオーバータイムが1~2か月程度と短いカタクチイワシについて、その差異についても検証を行う予定である。さらに、構築した代謝理論モデルを用いて、臓器の窒素同位体比の理論的予測により飼育実験から得られる予定の時系列に沿った器官ごとの同位体比の変化について、生理学的な考察を行う。
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Causes of Carryover |
給餌実験で採取した試料の同位体分析を速やかに実施する予定であったが、コロナ感染拡大に伴う事業縮小に伴い、同位体比の分析完了が2022年3月末と時間を要してしまった。得られた同位体比データの解析を2022年(令和4年)度に実施すると共に、本課題で得られた成果を国内外の学会にて発表、論文投稿に向け準備を進める。
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Research Products
(2 results)