2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of a new method for trace element measurement within diatom frustules using cathodoluminescence
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18K19863
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
長島 佳菜 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(地球表層システム研究センター), 技術研究員 (90426289)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉江 恒二 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(地球表層システム研究センター), 技術研究員 (00555261)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | カソードルミネッセンス / 珪藻殻 / 微量元素 / 鉄 / アルミニウム |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)カソードルミネッセンス(CL)を用いた珪藻殻の微量元素測定法開発 昨年度の研究から、北西太平洋、オホーツク海、ベーリング海のセジメントトラップ試料や海水、海底堆積物に含まれる複数種の珪藻殻のCLスペクトルが、Fe3+(1.7eV)やAl3+(3-3.5eV)、構造欠陥(2.7eV)に起因すると予想される発光中心を持ち、北西太平洋の亜寒帯で採取された珪藻は、オホーツク海やベーリング海の珪藻に比べ1.7eVの発光がほとんど検出されないことが明らかになった。すなわち鉄の不足が生物基礎生産を律速しているとされる北太平洋亜寒帯域で、鉄に起因する発光が弱い。しかし、生息する珪藻の種類が海域毎に異なる事が、海域毎のCL特性の原因となっている可能性も考えられる。そこで本年度は、北太平洋黒潮域~オホーツク海にかけて広く生息する珪藻種(Actinocyclus curvatulus)に注目し、同一種の殻のCLスペクトル測定を詳しく行うことで、その特徴が生息海域によって変わるのか否かを検証した。その結果、単一珪藻種においても、黒潮域、オホーツク海から得られた殻は1.7eVの発光が卓越し、北西太平洋亜寒帯域からは検出されないことが分かった。この結果は、珪藻の殻形成時の何らかの環境(栄養塩や水温)が珪藻殻中の微量元素量取り込み量に影響を及ぼしている可能性を裏付ける。 (2)培養した珪藻のCL分析に基づく海水中と珪藻殻中の微量元素濃度の比較 次年度に行う予定である溶存鉄濃度を変えた海水を用いた珪藻の培養実験に向け、1.サブナノモルオーダーでの溶存鉄分析法の確立、2.鉄分析のための試薬の精製および精製後の試薬の鉄汚染度のチェック、3.鉄濃度変化に対する珪藻の増殖の応答性について比較検討し、亜寒帯を代表するT. nordenskioeldiiを代表種として選定、4.実験器具のクリーン洗浄等の準備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は珪藻種を選んで新たに分析したことで、珪藻殻が生息海域の環境の違いを反映し、殻中には異なる濃度(ただし、CL分析などの感度の良い分析手法でないと検出できないほどの極微量)の鉄が含まれている可能性が濃厚になった。この可能性を証明するため、当初は既知の濃度の鉄をドープしたシリカガラスを合成し、1.7eV付近のCL発光強度と鉄濃度の関係式を作成する予定であった。しかし国内外のメーカーから作成が難しいとの回答があったため、珪藻殻の1.7eV付近のCL発光強度と殻中の鉄濃度との関係性の検証は行わず、その代わり培養実験から海水中の溶存鉄濃度とCL発光強度との関係を詳細に検証することにより、珪藻殻の1.7eV付近の発光強度から海水中の溶存鉄濃度を直接推定するような戦略へと変更した。そのため本年は、培養実験のための各種準備を入念に行った。
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Strategy for Future Research Activity |
北西太平洋~オホーツク海、ベーリング海、様々な海域から実際に集めた珪藻殻から、海水中の鉄濃度、もしくは他の海洋環境の違いに応じた、珪藻殻中の鉄濃度の差をCL分析で検出できることが分かった。今後は、海水中の鉄濃度を5段階程度に変えた珪藻の培養実験を行い、鉄の濃度の違いが海域毎の珪藻殻のCL特性の違いになっているのか否かの検証を行う。当初の予定では、既知の濃度の鉄をドープしたシリカガラスを合成し,CL発光強度との関係式を作成することで、CLスペクトルを一旦珪藻殻中の鉄濃度に変換し、培養実験からわかる海水中の溶存鉄の濃度が珪藻殻中にどういった濃度で取り込まれるのかを明らかにするプロセスを想定していた。しかし、シリカガラスの合成が難しいことが分かったため、珪藻殻のCL発光強度を珪藻殻中の鉄含有量に一旦変換するのではなく、珪藻殻のCL発光強度から直接海洋中の溶存鉄濃度についての推定を行うこととした。そのために、最終年度となる次年度は海水中の溶存鉄濃度細かく変えた珪藻の培養実験を行い、培養した珪藻殻のCL発光強度と海水中の溶存鉄濃度との関係を詳しく検証する。さらに得られた関係に基づき、堆積物などに含まれる珪藻殻のCLスペクトルから過去の海洋環境を復元する新たな方法を確立する。
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Causes of Carryover |
予定していた珪藻の培養実験がより大掛かりなものとなったため、本年度は実験手法の確定と準備の一部を進め、実際の実験は次年度に繰り越したためである。そこで繰越金は、次年度の培養実験に必要な各種消耗品の購入に充てる予定である。
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