2018 Fiscal Year Research-status Report
感染ネットワークの空間構造から評価する人獣共通感染症の生態リスク
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18K19868
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮下 直 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (50182019)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三條場 千寿 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (70549667)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 生態リスク / トキソプラズマ / 食物網 / ノネコ |
Outline of Annual Research Achievements |
外来種により引き起こされる人獣共通感染症の生態リスクを食物網レベルの視点から評価するため、鹿児島県徳之島と伊豆諸島御蔵島において、ノネコを中心とする食物網と感染実態を調べた。 徳之島では、ノネコ、野良ネコ、家畜を対象にトキソプラズマ症の浸淫度調査を行った。環境省と徳之島3町が実施している不妊化手術事業によって捕獲されたノネコ26匹、ノラネコ99匹を対象とした。Toxoplasma gondii Ankara株を抗原とし、不妊化手術の際得られたネコの血液より血清を分離し、血清中の抗トキソプラズマ抗体保有率をELISA法により測定した。抗体陽性の判定は、SPF(Specific Pathogen Free)ネコの平均抗体価0.226+3SD以上とした。ノネコ、野良ネコ間で差はなく、抗体陽性率は47.2%と高率であった。雌雄間および幼ネコ、成ネコ間でも有意差はなく、ノネコの生息する森林部を中心に徳之島全土にトキソプラズマ症が浸淫していることが示唆された。また、昨年度は家畜のうち、ヤギのトキソプラズマ抗体保有率を同様に調査した結果、抗体陽性率は30%であった。また、GPSテレメトリを4匹のノラネコに装着し、行動追跡を行った。その結果、餌付されている2匹はほとんど移動しなかったが、他の1匹は数キロスケールで農地や森林も含めた広域で移動していることがわかった。 御蔵島では、ノネコを中心とする食物網構造を明らかにした。その結果、ノネコは夏季にオオミズナギドリ、冬季にドブネズミに依存すること、ドブネズミはオオミズナギドリ、クマネズミは植物に依存すること、さらにノネコの行動圏は冬季に大きく広がることが示唆された。以上から、オオミズナギドリの時空間動態と連動した感染ネットワークが形成されていることが示唆された。また感染実態の把握のため、ノネコ5個体から血清を、ネズミ類13個体から脳を採取した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トキソプラズマ感染ネットワークに関与する可能性のある野生動物(ノネコ、クマネズミ、イノシシ)及び家畜(ウシ、ヤギ)から、すでに相当個体の血液や脳サンプルを採取できた。うちネコとヤギからは抗体の検出も定量できており、順調に研究は進んでいる。地域住民からのサンプル採取の許可も得られたことも収穫であった。GPSテレメトリ装着による行動圏の追跡についても、すでにネコ数匹のデータが取得されており、予想通り、宅地と農地、森林を跨いで移動している個体がいることが確かめられた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は引き続きノネコ、野良ネコのトキソプラズマ抗体保有率を調査するとともに、家畜としてウシ、野生動物のイノシシ、ネズミの抗体保有率を明らかにする。さらに、昨年度明らかになったトキソプラズマ抗体陽性ネコの分布図をもとに、土壌、地表水との接触による環境からの感染リスク評価のため、環境DNAからのオーシストの検出を行う。いっぽう、ネコを取り巻く食物網構造をより定量的に評価するため、安定同位体分析で食性分析を引き続き行うとともに、ネコやネズミの個体数や分布推定も行う予定である。
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Causes of Carryover |
本来は、ノラネコにもう1台GPSテレメトリを装着する予定であったが、適切な場所で捕獲できなかったため次前度へ繰り越した。
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Research Products
(3 results)