2019 Fiscal Year Research-status Report
環-鎖平衡を利用した芳香族高分子材料のケミカルリサイクル技術の開発
Project/Area Number |
18K19877
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
木村 邦生 岡山大学, 環境生命科学研究科, 教授 (40274013)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山崎 慎一 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (40397873)
新 史紀 岡山大学, 環境生命科学研究科, 助教 (40723268)
内田 哲也 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (90284083)
|
Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
|
Keywords | ケミカルリサイクル / 高性能高分子 / スーパーエンプラ / 環-鎖平衡反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
芳香族ポリアミドや芳香族ポリエステルに代表されるスーパーエンプラは,構造材料として広く使用されている.これらのスーパーエンプラも環境配慮から廃棄後の再利用や再生が求められる.スーパーエンプラは過酷環境下で利用されるために性能劣化は避けられず,マテリアルリサイクルには限界があり,ケミカルリサイクルが重要となる.一方,持続的開発の観点から,再生資源であるバイオマスからのプラスチック合成が重要であるが,スーパーエンプラは非再生可能資源である石油を原料として合成されている.バイオマスから合成される2,5-フランジカルボン酸(FDCA)はスーパーエンプラの有力なモノマー候補である.プラスチックをモノマーまで分解する従来のケミカルリサイクルでは,工程数の多さから経済的に機能していない.そこで,バイオマスから合成されたスーパーエンプラを対象に,廃棄されたスーパーエンプラを環-鎖平衡を利用して環状オリゴマーに変換し,必要に応じて開環重合によりポリマーを再生するという新しい省エネルギー型ケミカルリサイクル技術の開発を目指す.2019年度は対象スーパーエンプラを結合交換により適している芳香族ポリアミドとし,環状オリゴマーへの変換効率が高いと考えられるカルド型ジアミンである9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(BAF)とFDCAから誘導される2,5-フランジカルボン酸ジクロリド(FDCC))からのポリアミド合成を検討した.前年度で検討したポリエステルよりも可溶性が高く,この点でも環-鎖平衡条件の検討に適している.FDCAからFDCCを合成し,BAFとの重合条件を鋭意検討した.重合溶媒,温度,含水量など種々の重合条件を検討した結果,分子量はまだ多少低いものの目的とするポリアミドを調製することができた.分子構造的に環化が容易と考えられ,環状オリゴマーの合成と開環重合の検討を進めている.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新規の芳香族ジアミンであるBAFの精製に手間取ったが昇華精製法と再結晶化法を組み合わせることで縮合重合に供することができる高純度品を得ることができ,モノマーとしての使用に目途が立った.得られた高純度BAFとFDCCを用い,濃度や溶媒などの条件を最適化することで芳香族カルド型ポリアミドを調製することができた.得られたカルド型ポリアミドは分解温度以下に融点を示さず,高いガラス温度を有していた.また,窒素雰囲気中で高い分解温度を示し高耐熱性であることが分かった.フルオレン骨格由来のカルド型構造であるために非晶性であり,比較的良好な可溶性を示した.得られたポリアミドの分子量は十分に高くはなく,さらなる高分子量化の検討が必要である.溶媒の含水率や重合温度,ならびにリチウムクロリドなどの水素結合切断剤や重合で副生する塩化水素補足剤の検討により高分子量化は可能と考えられる.低分子量体は末端基濃度が高分子量体に比べて高いので,環状オリゴマーへの転換には有利である.環状オリゴマーを開環重合することで高分子量体が調製できる可能性も十分にあるために,縮合重合による高分子量化と環境オリゴマーを経由した開環重合による高分子量化の両方法を同時に進める.環状オリゴマーの調製条件は検討中であるが,目的とするポリアミドが合成でき,その物性評価ができており,おおむね順調に進展していると判断した.
|
Strategy for Future Research Activity |
2019年度の合成に成功したフルオレン系芳香族ポリアミドは可溶性に優れているために溶液中での環化反応が検討可能である.そこで,芳香族ポリアミドの末端基種や濃度が環化反応に与える影響を調べるとともに,反応溶媒,反応濃度,触媒種等の環化条件を検討して環状オリゴアミドへの転換効率を上げる.更には,芳香族ポリアミドで得られた知見をもとに,2018年度までに合成しているフルオレン系芳香族ポリエステルならびにフラン系芳香族ポリエーテルケトンの環状オリゴマー合成条件を検討し,環化反応を確立する.更には,得られた環状オリゴアミドの開環重合を行い,反応溶媒,反応濃度,反応温度,ならびに触媒種等を最適化することで高分子量体の芳香族ポリアミドの調製を行う.開環重合で得られた芳香族ポリアミドの特性と機械物性を比較評価する.得られた条件で環状オリゴエステルや環状オリゴエーテルケトンを開環重合し,同様に比較評価することでスーパーエンプラの環-鎖平衡を利用した新しいリサイクル法を確立する.また,化学構造の異なる環状オリゴマーとの開環共重合を行って新しいブロック共重合体を調製し,新しいスーパーエンプラを開発する.
|
Causes of Carryover |
今年度は,環―鎖平衡反応を検討する際の母体となる線状のフルオレン系カルド型芳香族ポリアミドの合成研究に重点を置いた.これまでに合成したカルド型芳香族ポリエステルとフラン系芳香族ポリエーテルケトンと共に環化反応の詳細な検討は次年度に継続し,集中的かつ系統的に行う予定である.これら環状オリゴマーの解析には質量分析が必要であり,学外機関の質量分析装置による測定となるため,その費用として次年度に使用したい.また,開環重合で再生する各種ポリマーの特性や物性の比較評価も一括して行いたく、その費用としても次年度での使用を考えている。
|