2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K19902
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
神保 泰彦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20372401)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 脳神経疾患 / 細胞・組織 / シグナル伝達 / ナノバイオ |
Outline of Annual Research Achievements |
心房細動は最も症例の多い心疾患であり,発作性から持続性,永続性へと段階的に進行することが知られているが,早期段階においては器質的な原因が認められない症例(孤立性心房細動)が少なくないことがわかってきた.孤立性心房細動はストレスの持続と相関が高いとされ,自律神経系による心拍制御システムの関与が示唆される.本研究では「自律神経系の可塑性」に焦点を当て,不整脈発症メカニズムを明らかにすることを目的とする.in vitro系に再構成した「自律神経支配を有する心房筋細胞群」に対して,電気刺激により交感神経活動亢進状態を誘起,心筋拍動リズムに不可逆な変調が生じる条件を明らかにし,変調が生じた際に自律神経系に生じる可塑的な変化を検出するという方針で研究を進める.本年度は集積化電極(MicroElectrode-Array; MEA)基板上に実験動物(Wistar rat新生児)から採取した交感神経細胞群,心筋細胞群を播種して共培養系を構築,心筋同期拍動時の活動電位伝搬時空間パターンを評価する手法の確立に注力した.(1) 自発拍動について,催不整脈薬(lidocaine)投与時の活動伝搬パターンの可視化を試みた.広範囲(7 mm×7 mm,従来は1.8 mm×1.8 mm)を観測対象とする新たなMEAを製作して計測を行なった結果,一方向に伝搬する正常な拍動伝搬以外に,リエントリ状に継続する異常伝搬パターンが生じる場合があることがわかった.正常/異常拍動間の状態遷移についても定量評価する手法を確立した.(2) ペーシング刺激により誘発される心筋拍動について,その空間伝搬パターンを可視化する手法につき検討した.平面上の64ヶ所の観測点で記録された活動電位について,刺激印加からの時間遅れをプロットして近似的な平面を導出することにより,空間的な伝搬方向の定量化が可能となることがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
MEA基板上に構成した自律神経/心筋細胞共培養系を利用して慢性電気刺激により交感神経活動亢進状態を誘起,心拍変動に生じる異常を観測してその発生メカニズムを明らかにすることを目標としている.計画初年度において,実験系の構築および計測信号解析手法の開発が完了した.64電極を集積化したMEA基板上にシリコンゴム(Poly-DiMethyl-Siloxane; PDMS)製のマイクロ細胞培養区画を設置,区画間をトンネル構造で連結した細胞培養皿を設計,製作した.標準デバイスに加えて観測領域を広げたMEAパターンを新たに導入した.実験動物から上頸神経節(Superior Cervical Ganglion; SCG)と心筋組織を採取,これを単離してMEA基板上に共培養系を構築するプロトコルを確立した.標準的なMEAでは培養心筋系の活動のごく一部のみが観測されていたが,今回新たに製作したデバイスにより,ほぼ試料全体の活動を可視化することが可能になり,典型的な不整脈であるリエントリ現象の観測に成功した.さらに,心筋活動パターンの定量評価手法として,誘発応答における時間遅れを指標とする3次元表示を試み,活動伝搬の方向という視点からの評価が可能になった.本年度開発した計測デバイス,解析ツールを利用して,自律神経細胞群に対する長時間の電気刺激により誘導される心拍変動を観測,解析することにより,心房細動発生メカニズムの解明につながる知見を得ることが期待できる.
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Strategy for Future Research Activity |
不整脈現象が発生するメカニズムの解明に向けて,心筋細胞群異常興奮伝搬現象の詳細な解析,交感神経活動亢進状態の継続に起因する心拍変動現象の観測,の2つの課題につき検討する. (1)心筋細胞群異常興奮伝搬現象:64電極を有するMEAに比べて多点での電気信号記録が可能なCMOSアレイ(MaxOne, MaxWell Biosystems AG, Switzerland)計測システムを導入,信号伝搬時空間パターンの詳細な解析を行う.各計測点での活動電位観測時刻に基づいて信号伝搬方向のベクトルを定義することにより,正常な同期拍動とリエントリ等異常興奮を定量的に評価する指標を確立する.さらに細胞内Ca2+イオン濃度計測等の手法も併用し,心筋細胞群異常興奮現象が生じる条件を明らかにすることを目指す. (2)交感神経活動亢進状態に起因する心拍変動現象:SCG領域に対する電気刺激が一過性の場合,心筋の拍動数は上昇した後,数分程度で初期状態に復帰すると考えられる.SCG活動亢進状態の継続時間を長くしていくと,いずれかの時点で電気刺激を止めても心拍リズムが不安定になる現象が生じることを想定して実験を行なう.1日-1週間-最終的には1ヶ月間の連続刺激,心筋拍動計測を実施,不安定な拍動リズムが現われる条件を明らかにすることを目標とする.自発拍動の間隔だけでなく,空間的な活動伝搬方向も定量評価の指標として利用する.不安定現象が生じた試料について免疫化学染色を適用し,系に含まれる細胞種の定量評価を実施,分化転換現象の寄与につき検討する. 上記の課題について得られた実験結果を統合し,今後検討すべき課題の整理と合わせて研究成果の取りまとめを行なう.
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Causes of Carryover |
計画初年度は自律神経/心筋細胞群共培養系の構築及び興奮伝搬現象の解析手法確立に注力した.結果として「in vitro系で観測されるリエントリ」という興味深い現象を発見した.その詳細な解析が不整脈現象の理解に向けて鍵となると考えられることから,初年度残額と次年度予算を合わせて計測システムを補強,次年度は異常興奮空間伝搬パターンの計測・解析に注力する計画である.
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