2018 Fiscal Year Research-status Report
骨組織の三次元構造に倣う生体活性セルロースナノファイバー人工骨の創成
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18K19913
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
薮塚 武史 京都大学, エネルギー科学研究科, 助教 (20574015)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | セルロースナノファイバー / アパタイト核 / 生体活性 / 擬似体液 / アパタイト形成能 / 人工骨 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒト血漿とほぼ等しい無機イオン濃度を有する擬似体液(SBF)(ISO23317)の2倍の濃度を有する水溶液を調製した。トリスヒドロキシメチルアミノメタンを溶解してpHを上昇させ、保持時間を変化させることで、アモルファスリン酸カルシウム微粒子(アパタイト核)を析出させ、濾過により回収した。アパタイト核もしくは市販の高結晶ヒドロキシアパタイト微粒子を、スラリー状のセルロースナノファイバーに混合してプレス成型を行い、乾燥させた。以上の工程により、複合体試験片を作製した。得られた試験片表面をエネルギー分散型X線分析、X線光電子分光法で評価したところ、カルシウムとリンの明瞭なピークが検出された。 次いで、得られた試験片をSBFに浸漬し、試験片表面におけるアパタイト形成能を評価した。セルロースナノファイバーにアパタイト核を複合化させなかったリファレンスの試験片では、SBF浸漬7日後においても試験片表面にアパタイト薄膜の形成は観察されなかった。一方、セルロースナノファイバーにアパタイト核を混合させて得られた試験片をSBFに1日間浸漬すると、ヒドロキシアパタイトに特徴的な鱗片状結晶からなる薄膜が試験片表面全体で形成している様子が電界放出型走査電子顕微鏡で観察され、エネルギー分散型X線分析においてカルシウムとリンのピークが強く検出された。さらに、薄膜X線回折測定では、SBF浸漬1日後の試験片表面においてヒドロキシアパタイトに帰属される回折ピークが強く検出された。以上の結果から、セルロースナノファイバーにアパタイト核を複合化させることで、高いアパタイト形成能を発現することがわかった。また、高結晶ヒドロキシアパタイト微粒子との比較から、母材に混合するリン酸カルシウム微粒子の結晶性が低いほうが、複合体のアパタイト形成能の向上に効果的であることも示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では2年目以降に開始を計画していた、セルロースナノファイバーの表面改質によるアパタイト形成能および力学的特性への影響の調査も既に開始しており、既に予備的成果が得られつつある。また、同じく2年目以降に開始を計画していたポーラス体の試作もすでに開始しており、研究は当初の計画以上に進展している。なお、走査型プローブ顕微鏡による基材表面の微細構造観察については、2年目に行う。
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Strategy for Future Research Activity |
アルキルケテンダイマー等を用いた疎水化処理や、TEMPO酸化処理等の表面改質をセルロースナノファイバーに施し、アパタイト核を混合して複合体を作製する。SBF試験によりアパタイト形成能を評価するとともに、材料の力学特性およびタンパク質吸着特性を調べる。また、混合するアパタイト核を種々条件を変えて作製し、アパタイト核の結晶性と無機イオン溶出挙動が体液類似環境におけるアパタイト形成能に与える影響も調べながら、生体機能発現機構解明の糸口を多方面から探索する。その際、接触角測定、X線光電子分光法等により、複合体の表面状態と親水性の関係を明確にしながら研究を進める。 さらに、アパタイト核をセルロースナノファイバーと混合したペレットに凍結乾燥を施し、ポーラス体を作製する。細胞が侵入しやすい細孔径を持つ材料作製条件を探索するとともに、材料の力学特性を検証する。
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Causes of Carryover |
【次年度使用額が生じた理由】本研究は、申請時から研究期間開始時にかけて予備実験をすでに綿密に行っていたため、現時点において当初予定していた研究項目に加え、次年度開始予定だった実験にも一部着手できている。そのため、当初の見込みよりも少ない消耗品を用いて研究を順調に遂行することができている。また、当初計上したクリーンベンチ、X線回折測定用管球等の高額物品は、研究室の他の予算(運営費交付金)から支出した。さらに、当初予定していた走査プローブ電子顕微鏡観察は翌年度に持ち越しとなった。上記の理由から、次年度使用額が生じた。 【使用計画】物品費2,197,691円、旅費500,000円、人件費1,000,000円、その他500,000円の使用を計画している。物品費として、セルロースナノファイバースラリー等当初予定していた消耗品のほか、試料表面でのタンパク吸着特性を明らかにするため、複数種の血清タンパクの購入を検討しており、高価な試薬を多数購入する必要がある。旅費としては、主に国際学会(第31回医用セラミックス国際会議、米国7日間)における成果発表を予定している。人件費としては、最終年度さらに研究を加速させる必要があるため、研究補助として技術補佐員1名を雇用する。その他、大型共有機器の使用を計画しているほか、研究成果を広く発信するため、研究成果のオープンアクセス論文誌への投稿も検討している。
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Research Products
(11 results)