2018 Fiscal Year Research-status Report
チキソトロピー性セルロースナノファイバーゲルを基盤とした生体組織作製系の創成
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18K19941
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
武田 直也 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60338978)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今任 景一 広島大学, 大学院工学研究科, 助教 (80777970)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | セルロースナノファイバー / ハイドロゲル / チキソトロピー性 / 三次元培養 / マイクロ流体デバイス / 三次元組織作製 / 筋組織 / 血管組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
標準試料のCNFゲルについて、さまざまな濃度でのレオメーターによるずり応力および粘度の測定を行い、チキソトロピー性を発現しつつ細胞担持能に優れる条件を最適化した。また超音波処理を施しその条件を最適化することで、CNFの凝集抑制と細胞の安定的な分散化を実現した。これら成果により、後述の組織作製の再現性が顕著に向上した。 続いて、CNFゲルに導入する細胞密度を最適化し、再現性良くゲルファイバー中で筋管組織および血管組織を作製した。培養21日で形成された筋組織のミオシン重鎖を染色し、全長が少なくとも1.6 cm以上である筋組織の形成が見出された。また、筋管組織が同一方向に配向して束構造を形成していることも確認し、筋管の平均サイズ(長さ、直径、密度)を定量的に算出した。一方で、繊維長が短いCNFの3次元培養場では筋管の形成はほとんど起こらず、CNF分子の長さが組織形成に大きな影響を与えるとの知見を得た。この機構解析のため、ゲルファイバー中のCNFの状態を走査型電子顕微鏡(SEM)により直接観察する手法を開発し、CNFはゲルファイバーの長軸方向に配向した構造となっており、一部は束状構造を形成していることが解明できた。これらの結果より、細胞がCNFの配向を認識して配向・融合し筋管形成していることが強く示唆された。 血管組織についても、血管内皮細胞と間葉系幹細胞(MSC)を混合して、21日間の培養により組織全長が少なくとも2.0 cm以上である血管の組織構築を達成した。また、顕微鏡画像の解析から、血管の直径が約100 μmであり、血管壁は単層の細胞層からなることを明らかにした。MSCがないと組織が構築されず、MSCが組織形成に重要なことが示された。 以上のように、ゲルファイバー3次元培養場の作製方法を概ね確立し、筋および血管の長大な組織構築を達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CNFゲルの濃度・粘度の最適化ならびに超音波前処理の実施手法および条件の確立、さらにゲルに導入する細胞密度の最適化を実現し、本研究の第一の目標である「CNFゲルファイバー培養場の作製法の確立」を達成した。これらの成果により、チキソトロピー性を発現しつつ細胞担持能と安定的な細胞分散化が可能なCNFゲルの作製が可能となり、細胞からの生体組織作製の効率が顕著に向上した。 第二の目標である「配向化したCNFに沿って細胞も配向し、効率的な組織誘導がなされる」との推定機構の実証に向けても、有用な知見が得られた。CNFには酸化(カルボキシル基の導入)の度合をはじめ繊維径や繊維長が異なる種類の材料が存在するが、標準型CNFは、マイクロ流体デバイスに導入して作製する際の流れストレスにより、ゲルファイバーの長軸方向に配向することを走査型電子顕微鏡の観察で明らかにした。また、配向度も低いと考えられる線維長の短いCNFでは、組織の形成能が低いことを示した。 第三の目標である「骨格筋組織・血管組織の構築と機能評価」についても、マウス筋芽細胞から筋管組織の作製を達成している。また、ウシ大動脈内皮細胞から、管腔化した毛細血管組織の作製も実現した。この際、成熟・管腔化を促す生理活性物質を産出する間葉系幹細胞との共培養が必須であることも明らかにし、管腔化組織の作製条件を確立した。組織の実用時に不必要なゲルファイバー培養場外層のアルギン酸ゲルの除去についても、当初計画していたアルギナーゼによる分解など追加的な試薬の添加は不要との知見が得られた。具体的には、組織形成誘導にCa2+不含の培養液中を用いて長期培養することで徐々に脆くなり、培養液の緩やかな撹拌などのずり応力を僅かに加えることで除去し得るとの予備的な結果を得た。 このように、研究計画の全体にわたり、大きな成果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
さまざまな種類のCNF(線維短、酸化度低、酸化度低・繊維径太)ゲル培養足場について、筋組織および血管組織の形成能を評価する。特に、「線維短CNFゲルファイバーでは組織形成能が低い」、との初年度に得られた実験結果の再現性を検証する。これらCNFについて、濃度条件等を最適化してレオメーターでずり応力及び粘度を測定し、チキソトロピー性の大小を評価する。また、ゲルファイバー内のCNFについて、SEM像での配向性の観察と高速フーリエ変換による配向度の定量的な算出を行う。これら、CNFの物性と微細構造が織形成能に与える影響を明らかにする。 続いて、初年度に作製法を確立した標準型CNFゲルを用いての長大な筋と血管のそれぞれの組織について、構造と機能解析をさらに進める。まず両組織内の細胞の生存率を、生死細胞を染め分ける試薬で定量的に評価する。筋組織については、電気刺激およびアセチルコリン添加による収縮機能を測定し、組織の成熟度を評価する。血管組織については、作製に用いる血管内皮細胞と間葉系幹細胞(MSC)をそれぞれCD31、CD90などで染色し、特にMSCが内皮細胞に分化しているかを検証する。また、血管内皮細胞の細胞間結合を特異的に担うVEカドヘリンなどの発現を蛍光免疫染色などで解析して、血管組織としての成熟度を評価する。 さらに、移植医療応用を目指し、作製した組織の齧歯類実験動物への移植時の挙動解析(残存性、移植したホスト動物からの血管組織の導入や結合)について、新たに研究を展開する予定である。特に、血管組織については、ホスト動物の血管に接続されれば、動物血管への墨汁注入などで移植組織の管腔構造の開存性などが容易に評価できる。生体内での組織の構造維持や機能の最大化を実現するように、CNFゲル足場の種類・濃度・前処理、細胞の密度、MSCと血管内皮細胞の組合せ比率などを最適化する。
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Causes of Carryover |
物品費については、CNF前処理用の超音波照射機の導入に際して機器の再検討を行い、当初予定していた機種の下位機種で性能が間に合うと判断して、この下位機種を購入した。このため、支出の圧縮ができ、主な物品明細に記載する必要もなくなった(当初は50万円以上の機器購入を予定していたが、実際に購入した機器は50万円以下となった)。旅費については、学内予算の補助費などで賄うことができたため、支出を圧縮できた。その他については、共通機器使用料が、学内予算の実験実習費などで賄うことができた。さらに、連携研究者も含めた他研究室と相互に機器の無償使用をし合い資産の有効活用を行ない得たため、使用予算の圧縮ができた。 次年度では全研究期間を通じた各費目配分額は当初計画通りとし、繰り越し予算を有効に活用して加速度的に研究を進展させるように務める。
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Research Products
(6 results)