2018 Fiscal Year Research-status Report
低酸素環境を起点とした多階層の胎内履歴情報に基づく心筋再生への新たな試み
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18K19943
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Research Institution | Kawasaki Medical School |
Principal Investigator |
橋本 謙 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (80341080)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
毛利 聡 川崎医科大学, 医学部, 教授 (00294413)
氏原 嘉洋 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80610021)
花島 章 川崎医科大学, 医学部, 講師 (70572981)
塚田 孝祐 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (00351883)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 心筋細胞 / 分裂・再生 / 酸素環境 / エネルギー代謝 / 胎盤 / 有袋類 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、出生時の肺呼吸開始による酸素上昇によって起こる心筋分裂停止機序を明らかにする為、出生時酸素上昇に関連したエネルギー代謝変化に着目し、哺乳類(ラット)の胎児~新生児~成体期における血中アミノ酸(39種)、脂肪酸(24種)、乳酸、及びピルビン酸を計測した。アミノ酸については、検出不可の10種を除く29種のうち13種では出生時の変動は認められなかった。残り16種のうち、大部分(11種)は出生時に減少、3種(シトルリン、シスチン、オルニチン)では増加した。特に、シトルリンは出生時に20倍まで著増し、成体期に再び減少していた。残りの2種(ヒスチジン、αアミノ酪酸)では出生前後に増加と減少を含む複合的な変動がみられた。脂肪酸については、変動しなかった8種を除く16種の全てで出生時に増加した後、成体期で減少するという共通の変動パターンが認められた。特にラウリン酸とリノレン酸では出生時に最大300倍の甚大な増加が認められた。乳酸とピルビン酸は出生時に減少した後、成体期にかけて回復するという変動がみられた。次に、酸素環境の重要性についての進化学的考察を加える為、種々の動物種(両生類【アホロートル】強い心筋再生能あり、爬虫類【カメ】弱い心筋再生能あり、鳥類【ウズラ】恐らく心筋再生能を喪失)の成体血液について同様の計測を行い、3-メチルヒスチジン(3-MH)、トリプトファン、アラキドン酸の3種において心筋再生能と血中濃度との間に強い相関を認めた。特に、3-MHはラットでは全く検出されず、心筋再生能が強くなるウズラ、カメ、アホロートルの順に血中濃度が高くなっており、ラットにおいても心筋分裂能が残る胎生期にはアホロートルの1/12程度の極低濃度の3-MHが検出された。以上のように、本年度は哺乳類出生前後、及び心筋再生能の異なる動物種間で血中濃度が劇変する候補分子群を見出すことが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
哺乳類の心筋細胞は胎生期に活発に分裂するが、出生後は分裂・再生能を失う。そこで本研究では、分裂が盛んな胎生期の心筋環境を明らかにし、これを成体心筋細胞に導入することで心筋再生を目指している。我々は最近、胎内環境制御の最上位には低酸素環境があり、哺乳類では出生時の肺呼吸開始による酸素濃度の増加が遺伝子系を介して心筋分裂を停めることを突き止めた。そこで本年度は当初の予定通り、出生時酸素上昇に関連したエネルギー代謝変化に着目し、上記「実績」で詳述したように哺乳類の出生前後、及び心筋再生能の異なる動物種間で血中濃度が劇変する候補分子群を見出すことが出来た。その中でも特に心筋再生能との強い相関が認められた3-メチルヒスチジン(3-MH)に着目しており、胎生期マウス単離心筋細胞への添加により分裂マーカー(Ki67, pH3)の発現率が最大10倍程度に増加することを確認している。但し、今回の計測は血液サンプルによるものであるので、現在、すり潰した心筋サンプルにおいて同様の計測を行うべく検討を進めている。胎内環境において最も重要となる酸素濃度の生体内直接計測系については、本年度に基盤となる顕微鏡光学系、測定制御プログラム等を確立することができ、ラット、アホロートル、オポッサム、カエル等で血中酸素濃度の計測に成功した。現在、ステージの電動化とXY領域自動スキャン機能等のアップグレードを進めている。また、マウス新生児の栄養環境を自由に制御する為の人工哺育系の確立を進めており、技術的な課題はあるものの、ある程度の目途が立った状態である。胎児低酸素環境の維持には胎盤が必須であるが、その胎盤を欠く有袋類オポッサムについても予定通り検討を進めており、心臓の構造・機能が細胞レベル及び臓器レベルで有胎盤類のマウスと概ね類似していること、成体期の心筋ではマウスと同様に分裂能が失われていること等を確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
多角的に研究を進めて行くが、中心となるのは3-MHの分子作用機序の解明である。3-MHはアクチン、ミオシン等の筋蛋白中のヒスチジンのメチル化により生じ、蛋白質分解後に再利用されずに尿へ排泄されることから、筋蛋白の代謝・分解の指標として利用される。その濃度の高いアホロートルでは心筋細胞の活発な分裂による筋蛋白の分解・合成サイクルが強力な心筋再生能の基盤である可能性があり、来年度以降は本分子の作用機序を詳細に検討する。また、心筋分裂における酸素環境の重要性についての進化学的考察を加える為、有袋類オポッサムや鳥類ニワトリを用いた検討を行う。有袋類は我々有胎盤類より遥かに未熟な状態で出生し、長期間にわたり母親の育児嚢の中で発育する。有胎盤類では出生時の肺呼吸開始で急激に酸素が上昇するが、有袋類では出生後暫くは皮膚呼吸が主体(肺は未成熟)との報告もあり、未熟な状態で出生する有袋類では心筋分裂を維持する為に出生後暫くは低酸素環境を維持している可能性がある。また、鳥類は卵生であるが、孵化前後での酸素環境や心筋分裂能を調べた報告はない。そこで、上述の生体内酸素計測系を用い、オポッサムの出生前後、及びニワトリの孵化前後の血中酸素濃度の計測に挑戦する。更に、各々の単離心筋細胞を酸素環境を変えて培養することで、心筋分裂には低酸素環境が必須であるという原則が種を超えて保存されている可能性を検討する。また、妊娠ラットを用い、母体酸素濃度を変動させた際の胎児側変動を計測することで、外乱に対して常に胎児側の低酸素環境を一定に維持する恒常性機構が胎盤により実現されている可能性を検討する。上記の様々な検討から心筋分裂を最大化し得る胎内環境情報(酸素環境、代謝基質、遺伝子系等)を抽出・選定し、マウス単離心筋細胞や人工哺育下の新生児を用いて分裂再生評価、及び成体心筋梗塞負荷に対する介入⇒再生・改善評価を行う。
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Causes of Carryover |
本研究を進めるうえで基盤となる生体内酸素計測系の構築を行っているが、上記「進捗状況」で述べたように、現在、顕微鏡光学系、測定制御プログラム等の確立が完了し、ラット、アホロートル、オポッサム、カエル等の動物で血中酸素濃度の計測に成功した段階である。引き続き、ステージの電動化とXY領域自動スキャン機能等のアップグレードを進めているが、既存の顕微鏡システムとの適合性や互換性のチェック、及び適切な機器の選定に予想以上に時間がかかっており、この部分にかかる費用については次年度に請求したいと考えている。また、マウス新生児の人工哺育系についても必要な保温容器やガラス器具等の選定を進めており、これについても次年度経費にて請求したいと考えている。
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Research Products
(7 results)