2019 Fiscal Year Research-status Report
低酸素環境を起点とした多階層の胎内履歴情報に基づく心筋再生への新たな試み
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18K19943
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Research Institution | Kawasaki Medical School |
Principal Investigator |
橋本 謙 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (80341080)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
毛利 聡 川崎医科大学, 医学部, 教授 (00294413)
氏原 嘉洋 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80610021)
花島 章 川崎医科大学, 医学部, 講師 (70572981)
塚田 孝祐 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (00351883)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 心筋細胞 / 分裂・再生 / 酸素環境 / 代謝栄養環境 / アミノ酸 / 3-メチルヒスチジン / 胎盤 / 有袋類 |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳類の心筋細胞は胎生期にのみ分裂能を有するが、出生後は分裂能を失う。このことが傷害を受けた成体心筋の再生を阻んでいる。近年、心筋分裂が活発な胎内環境の実態を解き明かし、これを成体心筋に導入することで心筋再生を目指す戦略が注目されている。我々は、心筋分裂には胎生期の低酸素環境が必須であることを突き止め、この環境下における代謝・栄養状態(アミノ酸、脂肪酸等)も重要ではないかと着想した。前年度に行った網羅的解析から、本年度は3-メチルヒスチジン(3MH)というアミノ酸に着目した。3MHは心筋分裂能を失っている哺乳類ラット成体の血液中では検出されず、分裂再生能が強くなる鳥類ウズラ、爬虫類カメ、両生類アホロートルの順に血中濃度が高く、ラットにおいても分裂能を有する胎生期には僅かに検出された。すりつぶした心筋組織においても同様の傾向が認められた。3MHはアクチン等の特定の筋蛋白にのみ存在し、特定のヒスチジン残基がメチル化酵素SETD3によりメチオニンをドナーとしてメチル化されることにより生じ、蛋白分解後には再利用されずに尿中へ排泄される。米国Stanford大学のグループより3MH特異抗体を入手し、種々の動物種や培養細胞で免疫染色を行ったところ、興味深いことに分裂中の細胞でのみ強いシグナルが検出された。このことから、間期の細胞ではアクチン構造が安定しており、抗体が3MHにアクセス出来ないが、分裂時はアクチン等の細胞骨格構造が一時的に壊される為、抗体がアクセス出来るようになるのではないかとの仮説を着想した。その際に遊離した3MHが細胞膜のアミノ酸輸送体を介して細胞外に排出されると考えれば、上記のように細胞周期が活発で、分裂能の高い動物種で血中濃度が高いことを説明できる。今後はこの仮説に基づき、心筋の分裂再生における3MHの働きを詳細に明らかにし、有効な心筋再生戦略の構築を目指したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本課題の主要テーマである代謝栄養環境(アミノ酸、脂肪酸等)については、前年度に種々の動物種の網羅的解析を終え、本年度は、その中から先述のように3MHに着目した。3MHが心筋の分裂再生に重要な役割を果たし得る可能性を見出しており、予定通りの進捗と言える。一方、胎内環境において我々が最も重要と考えている酸素濃度の生体内直接計測系(ポルフィリンによる燐光測定)については、既に顕微鏡光学系、測定制御プログラム等の確立を終え、ラット、アホロートル、オポッサム、カエル等で血中酸素濃度の計測に成功した。しかし、ステージの電動化とXY領域自動スキャン機能等のアップグレードに予想以上に時間を要しており、課題の進捗は若干遅れている。次年度早々にはアップグレードを完了できる予定であり、電動化・自動化によりデータ取得効率の大幅な向上が期待できる。胎内環境制御における最重要組織である胎盤についての進化学的検討については、胎盤を欠くこと以外は我々有胎盤類に最も近い有袋類オポッサムを用いた検討を進めている。成体期においては、心臓の構造・機能が有胎盤類のマウスと類似していること、マウスと同様に心筋分裂能が失われていることを確認した。有袋類は我々有胎盤類より遥かに未熟な状態で出生し、長期間にわたり母親の育児嚢の中で発育する。有胎盤類では出生時の肺呼吸開始で急激に酸素が上昇するが、有袋類では出生後暫くは皮膚呼吸が主体(肺は未成熟)との報告もあり、未熟な状態で出生する有袋類では心筋分裂を維持する為に出生後暫くは低酸素環境を維持している可能性がある。これを検証する為、現在オポッサムの交配・繁殖を行い、胎児、新生児を用いた実験を計画しているが、繁殖に予想以上に苦戦している。マウスと異なり、ストレスに弱く、仔の食殺が多い為、飼育環境の改善(個別飼育、最適な餌の検討等)を試み、一定の成果が得られた段階である。
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Strategy for Future Research Activity |
代謝栄養環境については、先述の通り、細胞分裂時のアクチン構造の一時的崩壊が3MHの遊離を引き起こし、これが細胞膜のアミノ酸輸送体を介して細胞外・血液中へ排出される、従って、分裂が活発になると3MHの血中濃度が上昇する、との仮説を検証する。まず、培養心筋細胞に分裂刺激を与えた際に培養上清中の3MH濃度が増加するかどうか、また、アクチンの脱重合処理のみによっても同様に3MHが増加するかどうかを検証する。アミノ酸輸送体に関しては、2019年に報告されたSNAT4に着目する。SNAT4欠損マウス(理研より入手予定)では母体から胎児へのアミノ酸輸送が障害され、胎盤細胞の増殖阻害により胎児発育不全が起こる。興味深いことに、最も大きく輸送が障害されたアミノ酸はヒスチジンであった。このことはヒスチジンが細胞分裂に必要であることを示唆している。我々の仮説では、一度遊離した3MHは再利用されない為、細胞分裂が起こるたびにヒスチジン、メチオニン、及びメチル化酵素SETD3による3MHの補充が必要であると考えられ、細胞分裂におけるヒスチジンの重要性について一致した見解となる。実際、予備検討では培養ラット心筋細胞にヒスチジン、メチオニンを単体添加すると分裂能が亢進した。以上の検討を多角的に行い、心筋分裂再生における3MHの働きを詳細に明らかにし、有効な心筋再生戦略を構築する。酸素計測系については、先述の通り、次年度早々に電動化・自動化を完了できるので、様々な動物種における酸素環境を計測・定量化することで、心筋再生との関係を明らかにしていく。オポッサムについては、胎児・新生児の使用が可能になり次第、上記の酸素計測系を用いて血中酸素濃度と心筋分裂再生能の相関を検討し、胎盤の獲得が心筋再生制御に及ぼした影響を評価する。以上の作業を積み重ね、胎内環境の実態を解明することで、新たな心筋再生戦略の構築を目指す。
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Causes of Carryover |
上述したように、3-メチルヒスチジン(3MH)についての検討を進める中で、アミノ酸輸送体SNAT4に着目するに至った。SNAT4欠損マウスの入手(譲渡先:理化学研究所)、維持・繁殖、及び表現型解析にかかる費用を次年度に請求したいと考えている。
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Research Products
(9 results)