2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K19958
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Research Institution | Hitachi,Ltd. (Research&Development Group) |
Principal Investigator |
斎藤 慎一 株式会社日立製作所(研究開発グループ), 基礎研究センタ, 主管研究員・部長 (80308212)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 光量子 / スピン / 光渦 / シリコンフォトニクス / 角運動量 / 強相関系 / 量子技術 / 偏光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、光の角運動量について、実験と理論の両面から基礎研究を進めるとともに、光の角運動量を用いた新しい強相関系の創出を目標に研究を進めている。特に、光の角運動量のうち、スピン角運動量と軌道角運動量のそれぞれについて、その量子性について研究を進めている。光の基礎的性質に関する研究は、古くは、ストークス、ポアンカレに始まり、マクスウェル、アインシュタインといった物理学者・数学者によって開拓されてきたが、量子力学が確立される以前から正しい定式化に成功していた点が興味深い。 本研究では、現代的な視点から立ち返り、理解を深める研究を進めている。理論的には量子多体問題を取り扱う場の理論が確立しており、実験的にもコヒーレントなレーザ光を容易に用いる事ができる時代になっている。 そこで、本研究では、巨視的な量子状態であるコヒーレント状態のレーザ光を用いた場合、光の軌道角運動量をどのように記述できるのか、また、その実験的な検証を進めている。レーザ光は巨視的な量子状態であり、量子力学的なコヒーレント状態として取り扱う事ができた。そして、光のスピン角運動量を回転の生成子として導き出す定式化を進めた。その結果、スピン角運動量のコヒーレント状態の期待値が、偏光状態を記述するストークス・パラメータと一致する事を示す事ができた。この結果は、レーザ光が巨視的な量子状態となっており、そのスピン自由度を二準位系で記述できることを意味している。 このような観点から、偏光状態を自由に制御可能なポアンカレ回転子を考案し、実験的な検証に成功した。ポアンカレ回転子は、光の軌道角運動量を制御する事にも活用する事ができる。軌道角運動量を有する光は、光渦とも呼ばれ、光の軌道が時空的に回転している状態を実現できる。右巻きと左巻きが量子的な重ね合せの状態になった光渦は、偏光と同じようにポアンカレ球で記述できることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験・シミュレーション環境が立ち上がり、順調に研究を進めている。初年度に、光の軌道角運動量の重ね合わせ状態を制御するポアンカレ回転子を考案し、シリコン・フォトニクス技術を用いて超ポアンカレ球に表される状態を制御可能な事を示し論文発表した。2年度は、この研究内容について国際学会で発表した。 また、より基本的な光のスピン軌道角運動量について、研究を進めた。その結果、提案しているポアンカレ回転子は、スピンの制御についても有効である事が理論的に判明した。そこで、まずは、パッシブな光学系を組み、既存の光学部品を用いて、ポアンカレ球上に表される偏光状態を自由自在に制御可能な事を検証した。 この研究の過程で、光のスピン状態を表すSU(2)対称性と、スピン期待値であるストークスパラメータが持つSO(3)対称性の関係を明確にした。このような対称性の間の関係については、数学ではリー代数として定式化されているため、リー代数やリー群の対称性に関する知見をフォトニクスに取り入れる研究に研究テーマを広げつつある。数学の知見を加える事で、理論的見通しが拓け、その実験的な検証を進める事で、ポジティブなフィードバックループで研究を進めている。 光のスピン角運動量が偏光である事が明らかになり、スピンと軌道の分離についても理論的な検討を進めている。その結果、従来理論的に進められていた平面波展開では確かに分離が難しいものの、導波路や光ファイバを伝搬するコヒーレント光に関しては、理論的に分離可能な事が明らかになった。特に、理論的に厳密な取り扱いが可能なGRIN(Graded index fibre)については、スピンと軌道を独立な自由度として取り扱える事を証明できた。これは現状の学会での認識と一致しないので、素直に受け入れられるか不明だが、前提条件が異なるだけなので、必ずしも矛盾しない。今後、論文などで発表していく。
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Strategy for Future Research Activity |
提案している角運動量を制御するポアンカレ回転子については、偏光状態のパッシブでの評価が終了し、論文化を計画している。また、これまでに検討してきた理論的な内容についても論文化などの方法で発表する事を計画している。その際、量子場の理論を用いることはもちろん、リー代数やリー群の知見を取り入れて、そのフォトニクス応用を新たに開拓する。 実験としては、今後、ポアンカレ回転子のアクティブ素子での検証を進める。複数の光変調器を用いて、ポアンカレ回転子としての動作を検証する。これは、巨視的な数の光子を有するレーザ光に関して、任意の1量子ビット回転演算を実施することに相当する。この実験を実現するためには、光の偏光状態を時間的に安定させる必要がある。しかしながら、これまでの研究で、温調を用いたとしても極わずかな空気の対流などによって、ファイバの温度がわずかに時間変動するため、光の位相を精密に制御する必要がある事が分かっている。今後、DC電源とコンピュータを接続してダイナミカルに制御するソフトウェアを開発する事によって、ファイバの偏光状態の安定化をはかる。これを実現させた上で、光変調器を用いたポアンカレ回転子を制御する予定である。ポアンカレ回転子の制御には任意波形発生器を用いて、高速に変調する。また、意図した偏光状態が実現できている事を検証するための高速のポラリメータも新たに組み立てる。ダイナミカルにポアンカレ球上の任意の状態を実現可能なため、分かりやすいデモを計画している。 また、スピンと軌道角運動量の関係についても、実験的な検証を進め、両者が強く相関をもつ状態を実現する事を目指す。特に、スピンの持つSU(2)対称性と軌道の持つSU(2)対称性の直積状態であるSU(2)xSU(2)状態を実現する事を目標とする。これはスピンと偏光が高度に絡み合った状態であり、応用展開も含めて検討を進める。
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