2019 Fiscal Year Research-status Report
Beyond misconceptualizations of cognitive resources: An international collaborative study in psychological science
Project/Area Number |
18KK0069
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
齊藤 智 京都大学, 教育学研究科, 教授 (70253242)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森田 愛子 広島大学, 教育学研究科, 教授 (20403909)
源 健宏 島根大学, 学術研究院人間科学系, 准教授 (40611306)
|
Project Period (FY) |
2018-10-09 – 2022-03-31
|
Keywords | 認知リソース / ワーキングメモリ |
Outline of Annual Research Achievements |
認知リソースは、心の働きを支えるエネルギー源であるとされる。この概念が重視されるのは、それが、行動の制御や感情の調整と深くかかわり、人間の知的活動を根本から支え、社会生活のさまざまな場面で大きな影響を持つと考えられているからである。本研究は、国際共同研究を通じて、既存の認知リソース概念とは全く異なる発想に基づく「認知リソースのワーキングメモリ理論」を提案する。このモデルは、ワーキングメモリの多要素モデル (Logie, 2011)と時分割型リソース共有モデル(Barrouillet & Camos, 2015)を理論的に統合し、認知リソース概念に適用しようとするものである。研究チームは、日本を中心に、マレーシア、英国、そしてスイスの研究者から構成されており、実験結果の再現性を複数国で確認することで、「処理時間とワーキングメモリにおける忘却速度の相互作用」という仮定を科学的に検証していく。2019年度は、まず、5月にプロジェクトメンバー全員が日本に集まり、理論的背景および問題の確認、先行研究のレビュー、具体的な実験計画の立案を行うとともに、各国に独自の予算管理事情、雇用にかかるルールを確認し、予算の管理、リサーチアシスタントの位置付けや雇用、実験参加者のリクルートと謝礼の支払いなどについて、具体的に検討した。8月末には、英国エディンバラ大学を、10月にはスイスのジュネーブ大学およびフリブール大学を研究代表者あるいは研究分担者が訪問し、実験の準備、予備実験の実施するとともに、実験を開始した。これら2国では最初の実験が完了し、分析を開始した。スイスで得られたデータに基づき国際学会への発表申し込みを済ませている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、国際共同研究を通じて、新しい認知リソース概念を提案することを目的としている。これまで曖昧にしか定義されてこなかった認知リソースを捉え直し、時分割処理という明確なメカニズムのもとで生じる、処理時間とワーキングメモリにおける忘却速度の相互作用によってこの概念を操作的に定義し、認知リソースのワーキングメモリモデルを構築することを目指す。この目的を達成するために、2つのワーキングメモリモデルを統合する。第一のモデルは、エディンバラ大学のRobert H. Logieによるワーキングメモリの多要素モデルである。このモデルを用いることで、忘却度の側面を検討する。第二のモデルは、ジュネーヴ大学のPierre N. Barrouilletとフリブール 大学のValerie Camosによって提唱された時分割型リソース共有モデルである。時分割処理のメカニズムの検討に優れている。2019年度には、まず英国エディンバラ大学において、複合スパンを用いたワーキングメモリ実験をおこない、忘却における干渉の影響を検討した。また、ジュネーブ大学およびフリブール大学においては、n-back課題を用いた二重課題実験を行い、二重課題遂行時における時分割処理のメカニズムを検討した。これらの実験の実施には、海外共同研究者との実験デザイン、実験プログラムの詳細に関する調整やセッティングのため、長時間の議論、複数回の海外渡航を必要としたが、最終的には実験を完了することができ、重要な成果を得ることができた。また、エディンバラ大学およびジュネーブ大学の事務局との連絡調整も軌道に乗り、倫理審査過程もスムーズであることが確認され、今後、同様の実験を円滑に実施していくことができる見通しがたった。本研究は、以上のように、研究計画に沿って順調に進んでいる。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度の早い段階で、前年度にすでに最初の実験を終えた英国とスイスのデータを分析し、続く実験の詳細を検討する。スイスで得たデータに関しては、そこから得られた成果に基づき、すでに国際学会における発表の申し込みを済ませている。必要に応じて論文も執筆していく。また、予備実験を行った日本での実験の準備を進めるとともに、マレーシアにおける実験の準備、倫理審査、マレーシア科学大学におけるサポート体制の整備を進める。可能な限り早い段階で、日本人研究者が海外研究機関に滞在して実験のセッティングをあらためて行い、実験を開始し、その後、現地の研究協力者および研究補助者に引き継いで実験を継続する。そのため、経費としては、海外渡航旅費に加え、研究補助者と実験参加者への謝礼が各国において必要となる。2019年度と同様に、英国エディンバラ大学での実験は、同大学教授のRobert H. Logie、スイス・フリブール大学での実験は、同大学教授のValerie Camosとジュネーヴ大学の教授であるPierre Barrouillet、また、マレーシアのマレーシア科学大学での実験は、同大学上級講師のWeng Tink Chooiの協力を得て、研究代表者および研究分担者が渡航して実験を行う。日本国内では京都大学において実験を実施する予定である。なお、新型コロナウイルス感染拡大という国際的な保健衛生上のリスクのため、新たな実験の開始が遅延する可能性もある。ただし、英国、スイスにおいてはすでに倫理審査を終え、実験も成功していることから、研究プロジェクト全体の進行の大きな遅延はないものと考えられる。
|
Causes of Carryover |
研究代表者の学内業務(教務委員長)のため、研究代表者と研究分担者のマレーシアへの渡航と同国における実験の開始を年度末に予定していた。しかし、国際的な保健衛生上のリスク拡大が懸念されるなか、マレーシアへの渡航を断念せざるを得ず、結果として実験は見送られた。そのため、予定していた旅費および実験謝礼が未使用となったが、次年度には、国際的な保健衛生上のリスクがなくなり次第、その旅費を使用し、比較的長く海外の拠点大学に滞在し、さらに多くの実験を実施する計画である。
|
Research Products
(6 results)