2019 Fiscal Year Research-status Report
中性子超過剰核の構造~最新技術を統合して探る新奇な核構造
Project/Area Number |
18KK0084
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小田原 厚子 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (30264013)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西畑 洸希 九州大学, 理学研究院, 助教 (00782004)
平山 賀一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究機関講師 (30391733)
畠山 温 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70345073)
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Project Period (FY) |
2018-10-09 – 2022-03-31
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Keywords | 中性子過剰核 / 原子核構造 / レーザー分光法 / β-n-γ核分光法 / スピン偏極ビーム |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の不安定核ビームの飛躍的発展は中性子数が極端に多い原子核の研究を可能とし、安定核近傍の原子核とは異なる新奇な構造が発見され始めた。中性子過剰核の構造の理解は、宇宙での元素合成過程の研究に基本的情報を提供する喫緊の課題である。本研究は、不安定核のスピンを偏極させ、β崩壊により娘核のスピン・パリティを決定し、核構造の精密情報を引き出す独自の手法を持つ我々日本グループと、新世代の大強度不安定核ビーム供給施設やレーザー技術、イオントラップ技術を持つTRIUMFが協力し、中性子過剰核の構造の系統的な解明を目的とする。 今年度はビーム量毎秒100個以上の中性子過剰核である、スピン偏極Mg-31核のβ崩壊よりAl-31核を、また、無偏極Mg-33核のβ崩壊よりAl-33の原子核構造を明らかにする実験を行った。2つのAl原子核は中性子数18と魔法数20であり、原子核は球形であることが期待されていた。しかし、我々のMg-31核の構造の研究結果によると、励起状態で様々な原子核の形が出現する変形共存の存在が期待され、原子核構造の解明が急がれる。 2019年3月と9月に現地のTRIUMFで実験準備を行い、11月に直前準備と実験を行った。研究代表者や研究分担者のみならず、若手の研究協力者(大阪大学や九州大学の大学院生、東京農工大の助教、学習院大のポスドク)も現地に赴いた。Mgのスピン偏極ビーム開発に予定以上の時間がかかり、Mg-33核はスピン偏極させず、十分な統計をためて崩壊様式を構築するために無偏極Mg-33核のβ崩壊実験に切り替えた。現在、2つの実験データの解析を行っている。解析途中の結果を、国際会議のポスターや日本物理学会で発表した。科研費雇用の学生が進めた中性子検出器の解析手法開発で、理論研究者と議論した結果は投稿論文としてまとめることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ビーム量毎秒100個以上の中性子過剰核であり、問題の中性子数が魔法数20である中性子過剰核のAl-33と、中性子数18であるAl-31の原子核構造を解明するため、2019年度はスピン偏極Mg-31核と無偏極のMg-33核のβ崩壊実験を11月に実施した。現在、実験データは解析中である。この段階ですでに、スピン偏極Mg-31核のβ崩壊では、Al-31核に新しい準位が数本と新しいγ線遷移が10数本見つけた。また、我々独自の手法(スピン偏極核のβ崩壊時のβ線放出の非対称分布から崩壊先の娘核の励起状態のスピン・パリティを決定できる)より、娘核Al-31の数本の準位のスピン・パリティを確定できている。今後、Mg-31の崩壊様式の構築をさらに進める。Mg-33のβ崩壊実験では、新しいγ遷移が観測された。また、低エネルギー中性子用の小型プラスチックシンチレーター検出器を新たに設置したことで、これまでに報告されていない中性子ピークを見つけた。最終的に、中性子非束縛状態も含めたMg-33のβ遅延中性子崩壊の崩壊様式の構築を目指している。その後、理論計算と比較しながら、2つのAl核の原子核構造の解明を進める。 今回の実験では、残念ながらMg-33のスピン偏極ビームを開発する時間が足りず、無偏極での実験となった。スピン偏極Mgビームを我々のビームラインに輸送することはTRIUMFとして初めてだったため、ビームの高偏度を維持できず、手法の確立に手間取ったためである。実験前にスピン偏極Mgビームの開発テストを行う予定であったが、TRIUMFの新施設の稼働準備のため、今年度は一般のビームタイムは大幅に制限されて実施できなかった。また、予定していたビーム量毎秒100個以下の中性子過剰核であるNa-32原子の超微細構造決定とスピン偏極Na-32ビーム開発実験も同様の理由で延期となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、ビーム量毎秒100個以上の中性子過剰核であるMg-33のスピン偏極ビーム開発実験を行う。前回の実験で、ビームを2価にして輸送したことが問題であることが明らかになっている。そこで、TRIUMF側が1価で輸送しても地磁気の影響を受けないようガイドを設置し、ビームテストを行う予定である。その後、スピン偏極Mg-33核のβ崩壊実験を行い、娘核Al-33の励起状態のスピン・パリティを決定する。また、ビーム量毎秒100個以下の中性子過剰核であるNa-32原子の超微細構造決定実験とスピン偏極ビーム開発実験を行い、スピン偏極Na-32核のβ崩壊実験により、最も注目されているMg-32核の原子核構造解明実験を行う予定である。 ただし、今年度は新型コロナウイルスの影響でTRIUMFは6月中旬まで閉鎖されており、現在カナダへの渡航も6月30日まで禁止されている。TRIUMFの実験課題審査委員会も半年延期された。また、日本の大学や研究所での研究活動も5月末までは制限されてきた。そこで、今年度前半は、オンラインでも可能な、昨年度のデータ解析とこれまでの成果を投稿論文にまとめることに専念する。今年度後半には、昨年度に本科研費で雇用した学生がまとめた中性子検出器の問題点と解決案や解析手法をもとに中性子検出器の改良を、また、β検出器の改良も行う。TRIUMFで実験や実験準備の実施が難しい場合、国内での加速器施設において検出器とそのシステムのビームテスト実験を行うことを考えている。 本申請は国際共同研究のため、今後の世界の新型コロナウイルスの状況にかなり影響を受ける。最悪の場合は、今年度の予算の海外旅費と海外への輸送費を来年度に繰り越し、来年度以降に現地カナダで集中的に実験準備と実験実施を進める計画に切り替えることもあり得る。判断は今年度後半に行う予定である。
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Causes of Carryover |
カナダTRIUMFでの実験を2019年11月に実施したため、実験装置を日本に送り返すのが11月末となった。輸送費は大阪大学に荷物が到着してからでないと金額が確定しないため、多めに予算を用意しておかなくてはならなくなり、前倒しをして予算を確保しておいた。実験直後に、来年度の早い時期に実験する可能性が出てきたため、極力送り返す輸送品を減らし、その結果、当初考えていた輸送費よりも低い金額となった。さらに、TRIUMFを通して支払う現地の輸送費の請求が年度を超えたため、今年度の予算で支払うことができなくなったことも原因の1つである。 翌年度に新たに開発する検出器の製作費、検出器のデータ取得のためのシステム一式の物品費が必要である。また、国内の加速器施設で実施する実験のため、検出器や実験装置一式の国内輸送費、数人が出張するための国内旅費も新たに必要となる。今後の日本とカナダの状況により可能ならば、TRIUMF現地での実験準備と実験を実施するための海外旅費と実験装置の海外輸送費に使用予定である。
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