2019 Fiscal Year Research-status Report
環境ストレス指標による高潮災害脆弱島嶼部のマングローブ林再生技術の開発
Project/Area Number |
18KK0116
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
浅枝 隆 埼玉大学, 理工学研究科, 名誉教授 (40134332)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金子 康子 埼玉大学, 教育学部, 教授 (30194921)
セナヴィラタナ ジャヤサンカ 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (70812791)
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Project Period (FY) |
2018-10-09 – 2022-03-31
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Keywords | マングローブ植林 / バイオシールド / 津波 / 高潮災害 / 環境ストレス評価 / 潮位変動 / クロロフィル蛍光 / 生長阻害 |
Outline of Annual Research Achievements |
マングローブ植林における生存率上昇のために、より適当な環境条件を、環境から受けるストレスの程度によって評価することを目的にしている。環境ストレスの評価には、ストレス下で発生する活性酸素濃度を測定することが直接的であるが、それには化学分析を必要とすることから、光合成を行う光化学系の損傷の度合いを反映する値である、発生する蛍光の量を入射エネルギーに対して示す値Fv/Fmで代用することを考えた。様々な形態をもつ植物に対し用いることで、活性酸素濃度とFv/Fmの値との間には、植物の形態に関わらず高い負の相関があることを得た。すなわち、高ストレス下ではFv/Fmの値が低く、低ストレス下では高くなる。次に、当初の予定に従って、フィリピン中央部のオランゴ島で、潮位が変化する下で、いくつかの比高に生える、Rhyzophora stylosa、Avicennia marina、Sonneratia albaの3種に対し、Fv/Fm値、日射強度、樹高、葉表面の温度、クロロフィルの濃度を測定した。得られた結果から、Fv/Fm値を変化させる要因を求めた。その結果、Fv/Fm値は、潮位によって変化し、冠水後は経過時間と共に増加し、露出後は時間経過とともに低下する。この変化速度は、Aviceniaで最も速く、Rhizophoraで最も遅い。このことから、マングローブのストレスは、一日の間でも冠水、露出と状態が変わることで変動しており、そのストレス変動はAviceniaで大きく、Rhizophoraでは小さいことが得られた。この差は、Aviceniaでは根が浅く横に広がるために、数時間程度の短期間の間の潮位の変化でもストレスを受けやすく、Rhizophoraは根が鉛直に伸びることから深く、ストレスを受け難いことが考えられる。また、日射強度によるFv/Fm値にたいする影響は小さいことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究では、マングローブの生育に適した環境条件を、環境ストレスを受けた際に生成される活性酸素の含有量で評価することを考えていた。しかしながら、これには実験室内での分光計を用いた化学分析を必要とする。こうした化学分析は、フィリピン側の協力機関で行うことを考えていたところ、平成30年度の調査で、こうした機関には十分な設備を有していないことが判明、携行型の分光計も試したが十分な精度が得られないということで、それに代わる方法を模索していた。そうした中、光合成の仕組みを考えると、光合成が行われる際、光エネルギーの吸収は、チラコイド膜上の光化学システムIIで行われる。しかし、ここが損傷を受けると、エネルギー吸収効率が低下、余ったエネルギーは蛍光として放出される。この蛍光の量を入射エネルギーに対して示す値、Fv/Fmで代用が考えられる。このFv/Fm値は、携行装置で計測が可能で、野外での観測を可能であることから、この値を測定、活性酸素含有量と比較したところ、高い負の相関があることが示された。そのため、現地での測定にはFv/Fm値を測定することで活性酸素含有量と同様の傾向得ることが可能になった。当初予定してた現地で3種類のマングローブに対し観測を行うことができた。観測した内容も、予定通り、塩水に浸かることで変化するストレスの特性を測定した。その結果、Fv/Fm値を環境条件の値と比較検討することで、一日のうちでも潮位の変化によってストレス強度が変化することが明らかになり、また、ストレスに影響するのは当初予測した湛水深ではなく、冠水や露出からの経過時間がストレス強度に反映されることなどの新しい知見を得ることができた。 当初の計画に合ったレベルの結果が得られたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定では、活性酸素含有量で評価することを考えていた環境ストレス強度を、Fv/Fmで評価する方法に変えたために、活性酸素含有量で考えていた仮説を、新しいストレス強度指標であるFv/Fm値を用いて、以下のような過程で確かめる。これによって、活性酸素H2O2含有量とFv/Fmの二つの指標の相互関係が確立されることになる。 令和元年度の観測では、満潮時の冠水や干潮時の地面の露出による潮位の時間的変動が最も大きなストレス要因になっていることが得られた。しかし、他の要因でストレスが大きいものも存在することが考えられる。まず、様々な条件にある個体のFv/Fm値を測定、比較することで、その他のストレスを高める要因を探しだす。次に、これらの高いストレスをもたらす要因が複合した際に、個々の要因で生ずる強度の和と複合した要因によるストレス強度を比較することで、要因ごとに得られるストレス強度と全体のストレス強度との関係を導く。現地で、元気な個体と枯死しかけている個体に対し、いくつかの潮位の条件で、Fv/Fm値を測定、マングローブが枯死に至らせるFv/Fm値の値を求める。現地を踏査し、種ごとの分布を得、その結果をFv/Fm値からストレス強度から推定される分布との関係を得る。また、植林されたマングローブ群落における生存率とFv/Fm値を比較することで、植林地の適否を求める。 なお、当初から、分析の難しいものに関しては、わが国で得られるサンプルを日本国内で分析することを計画していた。それに従って、日本のサンプルに対し、抗酸化酵素活性等を測定し、ストレス強度との間の関係を把握する。 環境ストレスから得られる分布や枯死条件に対して得られる現象は、他の植物においても同様に当てはまると考えられる。わが国の河岸の植物などにも同様な観測を行うことで、現象の一般性を確かめる。分析法の一般化を図る。
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Causes of Carryover |
本研究課題では、波浪、津波災害による被害低減に向けてマングローブの効果的な植林法の開発が目的であり、フィリピン、セブ島沖の標高の低い平坦なオランゴ島を対象に調査を行う。ただし、観測は、月に一度程度の潮間帯の広がる大潮の時期に行う必要がある。ところが、この地域は、台風の直撃を受けやすい地域であることから、その合間を縫って調査計画立てる必要があった。この地域では、台風の発生は必ずしも夏季に限ったものではないことから、当初、相手国側の研究者の都合等も考慮して、7月から年度末の時期の調査を予定していた。ところが、令和元年度は、7月から11月末まで、ほぼ毎週のように台風が来襲、観測の計画がたてられなかった。令和2年の2月になって、漸く観測の機会が得られたもの、新型コロナウィルスの影響で観測期間を短縮せざるを得なかった。そのため、当初予定していた、長期間滞在して行う観測や分析作業の人件費がかからず、また、それに要する物品の購入も当初の予定より低額に抑えることができ、それに必要な雑費も必要なかった。対象国のフィリピンでは、新型コロナウィルスの影響は限定的であることから、令和2年度には、安全な渡航が可能になった時点で、令和元年度から繰り越された費用を利用して、令和2年度に計画されていた内容に並行して、前年度予定されていた観測も行うことを計画している。
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Research Products
(1 results)