2019 Fiscal Year Research-status Report
Construction of a theoretical framework for prenatal diagnosis based on the concept of duty
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18KK0323
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
圓増 文 東北大学, 医学系研究科, 助教 (60756724)
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Project Period (FY) |
2019 – 2021
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Keywords | 自律 / 出生前検査 / 公的出生前スクリーニング / NIPT / 義務 / 権利 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、出生前検査提供の文脈に焦点を絞り、自律概念に依拠した枠組みの限界とそれに代わる理論枠組みを構築すること、さらにそれを日本社会にのみ当てはまる枠組みとしてではなく、歴史や文化、思想の大きく異なる国々によって最低限共有可能な枠組みとして提唱することを目指している。本年度は、次年度以降開始予定であった豪州での共同研究のための準備期間であり、下記の成果を得た。 1)現状の整理:豪州を含めた欧米社会での出生前検査提供の現状を把握するため、文献収集およびその精査を行った。この結果、欧州の多くの国で2000年代初頭から検査をスクリーニングの形で提供するために公的制度が設けられてきたこと、2011年に登場したNIPTに関しても制度導入に向けた議論と研究が進んでいることが明らかにされた。 2)公的制度の正当化をめぐる議論の整理:公的出生前スクリーニングに焦点を絞り、そのような制度が支持される根拠をめぐる議論を分析し、論点を整理するとともに、そこにおいて自律概念の果たす役割について分析した。その結果、そうした議論において、自律が根拠として重要な役割を果たしていること、その際自律は「促進するものto promote」「高めるものto enhance」として広く理解されており、その理論的基礎として「関係依存的自律relational autonomy」が引き合いに出されていることを明らかにした。 3)ディレンマの検討:NIPTの登場によって提起された公的出生前スクリーニングの在り方をめぐるディレンマに注目し、ディレンマをめぐる近年の議論の動向を分析した。その結果、自律に依拠した理論枠組みでは、ディレンマに対応することに限界があることが示された。さらに、自律に代わる枠組みとして、義務概念に依拠した枠組みの発展可能性について検討を行った。この検討は現在も継続中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は次年度の予定していた豪州での共同研究の準備期間であり、当初の計画では、1)豪州を含めた欧米社会での出生前検査提供の現状の把握、2)公的スクリーニング制度正当化をめぐる議論の整理、3)NIPTの登場によって提起された課題をめぐる論点の整理を計画していた。1)および2)については、アジアを中心とした国々の参加者からなる国際会議において途中経過を報告し、意見交換を行うことができた。さらに、1)から3)までの成果を英語論文にまとめ、国際学術誌bioethicsに投稿することができた。他方で、義務の枠組みを体系的に発展させる上での課題として、第一に危害harm概念の再検討の必要性、第二に差別表出主義の議論expressivist argument及び批判の吟味の必要性、第三に「親になろうとする者の義務」という考え方の再検討の必要性が明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では、2020年4月より豪州にて共同研究を開始する計画であったが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止策として3月中旬より豪州政府によって開始された入国制限の影響を受け、渡航を延期した。当面、国内外の移動が必要となる研究活動は制限される可能性があるため、今後の研究計画を大きく見直す必要がある。対応策として、国内において実施可能な下記の三点を計画している。1)メールやオンラインを通じて共同研究者と密に連絡を取り合い、日本と豪州での出生前検査に対する捉え方の違いや自律概念の理解の違いを明確にする。2)日本国内の出生前検査提供をめぐる制度、歴史、議論について、文献の収集・精査を通じて欧米との対比を行い、日本における議論の特徴を明確化する。3)本年度の研究を通じて明らかになった三つの課題(1.危害harm概念の再検討、2.差別表出主義の議論expressivist argument及び批判の吟味、3.「親になろうとする者の義務」という考え方の再検討)について、文献研究を通じて検討を進める。
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Research Products
(1 results)