2020 Fiscal Year Research-status Report
A Study of the Design Theory of Art and Architecture in the Late Umayyad Period
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18KK0327
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
安岡 義文 早稲田大学, 高等研究所, 講師(任期付) (20786496)
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Project Period (FY) |
2019 – 2021
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Keywords | デザイン理論 / イスラーム建築 / 後ウマイヤ朝 / プロポーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はコロナ禍という状況を踏まえ、スペインでの海外研究滞在を断念し、昨年度の調査で採取したデータの分析と文献調査に重点を置いて研究活動を行った。 マディーナト・アッ=ザフラー王宮都市の宮殿地区から出土している柱頭の記録と分析を行った結果、概ね二種類に分類できることを示した。一つは、コリント式柱頭、そしてもう一つはその派生形であるコンポジット柱頭であり、いずれも、帝政ローマ時代に標準化された形式のものを採用している点が重要である。一方、柱頭装飾の加工は、同時代のビザンツ帝国、イスラーム王朝、そしてキリスト教国にみられる彫りの深いレリーフ状の表現であり、古代様式の復興と新たなデザインの両方が融合した折衷的性格を持った新しい芸術表現が模索されていたと考えることができる。これは既往研究で主張されてきた西ゴート族からの影響や母国シリアでアッバース朝によって滅ぼされたウマイヤ朝時代の建築との結びつきといった、従来の後ウマイヤ朝の建築デザインに対する評価を見直すことを迫る発見であり、地中海文明圏を一手に掌握したローマ帝国に肖ろうとする姿勢の表れであったとみなすことができる。 ローマ帝国時代の建築書であるウィトルーウィウスの「建築十書」のアラビア語写本が当時存在していたことを示す証拠は未だ発見されていないが、同時代におけるトレドやシチリアなどでのギリシア語、ラテン語で書かれた古典文献のアラビア語への大々的な翻訳事業が行われていたことを鑑みれば、同書がアラビア語に翻訳されていたとしても不思議ではない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
コロナ禍により、スペインでの研究滞在および史・資料調査ができなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍が収まるのを見計らって、海外研究滞在および史料調査を行っていきたい。また、1年度目の史料調査だけの分析結果を当初計画していたよりも短めの論文として査読論文誌に発表する。 これまえでの研究成果を踏まえ、柱頭のプロポーションを、3D技術を用いて、より精密に分析し、ウィトルーウィウスの「建築十書」にみられるシュムメトリアの技法が適用されていたかどうか、また適用されていたとすればどのような範囲であったかを見極めていきたい。ここに生まれた新たな問いとは、すなわち、後ウマイヤ朝の柱頭デザインは、帝国ローマ美術の外観のみを模倣したものであったか、それともその形を実現するためのデザイン技法(ヘレニズム文明ではシュムメトリアとよばれた)までも習得していたのかということである。この問いを解明できれば、12世紀ルネサンスやイタリア・ルネサンス期の美術界に興るヘレニズム文明の復興運動と中世イスラーム文化との新たな関係性も見えてくるはずである。 従って今後、ローマ帝国の建築美術と後ウマイヤ朝の建築美術の関係性を示す新たな手掛かりが見つかる可能性を検討しながら研究を進めていきたい。
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Research Products
(2 results)