2023 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18KK0332
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
三田 順 北里大学, 一般教育部, 准教授 (20723670)
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Project Period (FY) |
2019 – 2023
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Keywords | スロヴェニア文学 / 越境性 / マーリボル / ドラーゴ・ヤンチャル |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度にはこれまでの研究成果として、現代スロヴェニア文学を代表する作家ドラーゴ・ヤンチャル(1948-)に焦点を当て、彼の近年の作品における越境性の問題を考察した。スロヴェニア第二の都市マーリボル出身のヤンチャルはその小説作品においてしばしば生地を舞台とした作品を発表しているが、その際、現在はオーストリア国境近くに位置し、かつてはドイツ系住民が多数派であった過去を持つこの都市を境界的なトポスとして描いてきた。中でも2017年に出版された長編『そして愛もIn ljubezen tudi』は、第二次世界大戦末期から戦後にかけてのマーリボルの歴史に正面から向き合った新境地と言える作品といえる。多民族国家であったハプスブルク君主国の時代、そして第一次世界大戦後に誕生したユーゴスラヴィア王国、ドイツ占領期、第二次世界大戦後のユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国における国境都市の運命を描きつつ、この町の多言語性、政治的、社会的多様性をそれぞれに体現する登場人物を配し、この境界都市の錯綜した歴史、異種混淆的アイデンティティーを浮かび上がらせ、善悪二元論、スロヴェニア中心的史観といった膠着した既存のイデオロギーへ揺さぶりをかけている。年度末に学会誌に発表した論考では、相容れない要素が並置されることで既存の権力/秩序に異議申し立てする空間としてミシェル・フーコーが1960年代初頭に提示した「ヘテロトピア」を援用し、ヤンチャルが立場、属性の異なる複数の声によって、真の主人公でありながらもそれ自体声を持たない都市を語らしむことで、マーリボルを相容れないものが混在する空間として表象し、本小説そのものをして、排他的な民族的、政治的イデオロギーに異議申し立てする場としていることを明らかにした。
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