2019 Fiscal Year Research-status Report
Looking into Authoritarian Populism from the Perspectives of Sexual Minorities: Southeast Asia and Philippines
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18KK0341
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
日下 渉 名古屋大学, 国際開発研究科, 准教授 (80536590)
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Project Period (FY) |
2019 – 2021
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Keywords | フィリピン / 東南アジア / 性的マイノリティ / ポピュリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、性的少数者をめぐる政治を、共同体を構成する「善き市民」、すなわちシティズンシップの定義をめぐる闘争として理解する。これは、既存のシティズンシップを男性中心的な異性愛規範によって構成された特殊形態とみなし、それがいかに既存の不平等な権力構造や資源配分を支えてきたのかを批判する性的シティズンシップ論に基づいている。たしかに、西洋で生まれた性的シティズンシップ論を、そのままアジアに当てはめることはできない。アジアには西欧とは異なって強権的な政治体制が多く存在しているし、シティズンシップという枠組みそのものが西欧の文脈に依拠しているからである。しかし、本研究では、アジアにおける性的少数者の政治を分析することを通じて、性的シティズンシップ論を脱西洋化し、その視座を拡大することを目的とする。 そのうえで、次の二つの仮説を設定する。第一に、アジアの諸国家による性的少数者への多様な処遇は、いかに支配勢力が彼ら/彼女らを利用して「善き市民」の道徳性と境界線を定義し、自らの支配を正当化してきたのかから説明できる。第二に、性的少数者は「公式の政治」と「日常の政治」で周縁化に抗してきた。前者では、性的少数者は自らも「善き市民」の条件を満たしていると主張して、異性愛者のみが享受してきた法的権利を要求する。だが、この政治には、不平等な既存のシティズンシップを助長したり、「善き市民」の鋳型から外れる性的少数者を排除する危険が伴う。次に、後者では、市場における成功や、親密圏の再構成によって、生計、尊厳、ケア関係を支えることが目指される。だが、それが有効であるほど、人々はあえて既存のシティズンシップに根差した権力構造を変革することにメリットを感じにくい。 本研究では、強権的なポピュリズムが高まるなか、性的少数者をめぐる政治がいかに争われているのかを各国の事例研究によって明らかにしていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年9月からフィリピンのホーリーネーム大学に客員研究員として籍を置き、研究に取り組んできた。その成果として、第一に、ドゥテルテ政権について2本の論文を出版した。性的少数者については国際学会で報告し、2本の草稿を執筆した。1本は、性的シティズンシップに関して日本語で執筆した理論的論文である。これに対して基科研のメンバーからコメントをもらい修正に取り組んでいる。またその内容は、現地大学の共同研究者の前でも英語で報告し、有意義なコメントをもらうことができた。2本目は、フィリピンの事例に、法的権利をめぐってLGBT運動が展開される公共圏の政治と、「悲しみ」をめぐる親密圏の政治の相互関係について分析した。これについても、基科研および現地大学の共同研究者からコメントをもらい、修正作業を進めている。 第二に、日本語と英語での論集出版に向けた作業を進展させてきた。基科研の各メンバーは日本語で論文を執筆し、相互レビューを行い、それをもとに内容の改善・発展に取り組んでいる。来年度には日本語での論集を出版する予定である。また、英語での論集出版をしていくために、共同研究者のピーター・ジャクソン教授(オーストラリア国立大学)と協働して、2020年6月に神戸で開催予定のAssociation for Asian Studies in Asiaに二つのパネルをエントリーし、ともに採用された。ここで国内外の研究者からコメントをもらい、国際的な評価に耐える英語論集を執筆していく予定である。 第三に、現地研究者との共同調査の準備を進めた。2020年3月までに月1回の研究会を行い、計5名の現地研究者と研究課題の共有と調査の分担体制を構築することができた。5月には性的少数者が活躍する宗教行事フローレス・デ・マヨや、フィエスタにおけるミス・ゲイ・コンテストが多く行われるため、重点的に調査を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
予期されなかったコロナ・ウイルスの広がりと、3月中旬から実施されているフィリピン政府の厳格な封鎖によって、現地調査の遂行に多大な支障が出ている。現実的な問題として、現地研究者と準備を進めてきた共同研究の実施はひとまず延期せざるをえない。また、予定していた国際学会での報告も、中止か延期になると考えられる。 それゆえ、これまでに入手したデータと文献調査を基に個人の論文執筆を進めると同時に、共同研究者との論集出版に向けた作業を重点的に行いたい。日本語での論集については、具体的に出版社も決まっている。すでに全15本のうち11本、コラム2本のうち1本が集まっており、編者からのコメントをもとに加筆・修正の作業が行われている。8月末までには全ての完成原稿をそろえる予定である。その後、日本語の論集を国内の関連する専門家に配布し、コメントを仰ぐ。そのうえで、オンライン研究会などを通じてピーター・ジャクソン教授と協働しつつ議論を深め、英語論集の出版作業を進めていく予定である。
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