2020 Fiscal Year Research-status Report
Looking into Authoritarian Populism from the Perspectives of Sexual Minorities: Southeast Asia and Philippines
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18KK0341
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
日下 渉 名古屋大学, 国際開発研究科, 准教授 (80536590)
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Project Period (FY) |
2019 – 2021
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Keywords | 性的少数者 / LGBT / 東南アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、次の議論を立てた。第一に、諸国家による性的少数者の扱いは、いかに支配勢力が「善き市民」を定義し、その統治を強化、正当化しようとするかによって異なる。支配勢力が国民・家族・宗教の正統性原理を相互に補強して動員し、強固な「善き市民」像を打ち立てようとする社会では、性的少数者は排除されやすい。その代表はインドネシアとマレーシアである。国民・家族・宗教の正統性原理の間に齟齬があったり、グローバル経済での成長が優先される社会では、支配勢力が性的少数者の権利付与を限定的に進めうる。自らの体制がいかに民主的で人権に配慮しているか国内外にアピールしたり、「人的資源」を経済発展に活用できるからだ。タイ、シンガポール、ベトナムがこの例に当たる。そして、支配勢力の中でも包摂と排除の力学が拮抗していたり(フィリピン)、支配勢力がこのイシューを政治資源として利用していない社会(カンボジア・ミャンマー)では、性的少数者は「包摂された周縁化」を強いられ続ける。 第二に、こうした処遇に対して、都市中間層を中心とする性的少数者は、LGBTの概念と運動を解放の契機と捉え、自らも「善き市民」だと訴え、「公式の政治」を通じて法的権利を要求してきた。だが、それは、既存の規範の不平等性を温存したり、「善き市民」の鋳型に合わぬ者への排除を助長する危険が伴う。他方、貧困層、高齢者、農村の性的少数者の多くは、宗教儀礼、美容、芸能などのニッチ職業で成功を目指し、周縁化に抗してきた。こうした「日常の政治」が有効であるほど、彼らは「公式の政治」に参加するインセンティブを抱きにくい。ただし、「日常の政治」は、既存の規範を変革する可能性ももつ。伝統的結婚を通じて法的には認められていない「同性婚」を実現したり、家族の枠を超えたケア関係を築くことで宗教的救済や親密圏での癒しを得るといった諸実践は、そうした可能性を示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
滞在先のフィリピンでは、新型コロナウイルスの感染拡大への対抗策として、厳格な外出禁止を伴うロックダウンが施行された。その結果、現地の研究者と計画していた共同研究を実施できなくなってしまった。それゆえ、フィリピンの事例をさらに深く探求することは断念する一方で、基課題「東南アジアにおけるLGBTの比較政治研究」の成果をさらに発展させ、英語で出版するというもう一つの目的に専念することにした。そして、そのための準備作業として、基課題における共同研究の成果を『東南アジアと「LGBT」の政治──性的少数者をめぐって何が争われているか』(日下渉・青山薫・伊賀司・田村慶子、明石書店、2021年4月)として出版するに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、この日本語の論集に対して、専門家や当事者たちから幅広いフィードバックを集め、国際的な基準に耐える論集へと練り上げる作業を行っていく予定である。具体的には、オンライン合評会の開催を計画している。 また、英語論集の共同編者として参加予定のオーストラリア国立大学のPeter A. Jackson名誉教授と協働して、2021年6月に京都精華大学で開催予定だったICAS-12(The 12th International Convention of Asia Scholars)に二つの関連パネル報告をエントリーし、採択された。また、この国際会議の後に、国際ワークショップを開催する予定を立てた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって、オンライン開催となってしまい、Jackson教授の来日も不可能になったため、現在オンラインでの国際ワークショップを開催する準備を進めている。そこでの議論をもとに、英語論集の出版計画を前進させていく予定である。
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