2019 Fiscal Year Research-status Report
Public Goods Provision in the Early Modern Economy: Comparative Study between Qing China and Tokugawa Japan
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18KK0343
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
高槻 泰郎 神戸大学, 経済経営研究所, 准教授 (70583798)
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Project Period (FY) |
2019 – 2021
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Keywords | 経済史 / 比較制度分析 / 徳川日本 / 清朝中国 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、清朝中国と江戸時代日本における公共投資の実態を比較することを課題に掲げる。灌漑設備や輸送インフラの構築などの公共投資は工業化の前提条件となるため、19世紀以降の両国の差を生んだ要因を解明する上で有効である。具体的には、公共投資が民間の地域リーダーの資本によって担われた清朝中国と、幕府によって指名を受けた外様大名が公共投資を実施した江戸時代日本の比較を行うものである。 2019年度は、2019年11月1日より2020年3月28日まで、シンガポール国立大学経済学部に滞在し、共同研究者のSNG Tuan Hwee氏と、週に1~2回のペースでミーティングを開き、上記研究課題に取り組んだ。 具体的な進捗として、第一に、徳川日本における諸大名の農業生産力に関して、パネルデータを作成したことを挙げる。我々は江戸幕府が大名に指示した公共事業にかかる費用の巨大さに着目し、そのための資金を外様大名達が調達できた背景として、農業生産力に着目した。まずは徳川日本の大名間での比較を試みるべく、①関ヶ原合戦直前の石高(表高)、②大名家としての確立以後の表高、③明治3年時点での草高(実生産力)の3点のデータ整備作業を進め、完了した。 第二に、農業生産力と密接に関わる指標として人口と気候条件に関するデータを既存研究から蒐集、整理した(一部データは未整理)。その結果、いわゆる天保飢饉が生じていたと言われる時期(1833~38年)における気候条件には地域偏差があることが判明した。 第三に、阿片戦争以後の幕末維新史について、共同研究者と理解を共有したことである。阿片戦争以後、江戸幕府は公共事業を大名に割り当てることはしなくなり、各自で軍事力強化に努めるように求めた。巨額の公共事業を請け負ってきた諸大名にとって、このことがいかなる意味を持ったのか、引き続き考察していくことを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シンガポール国立大学での滞在期間中は、共同研究者と緊密な連携がとれ、研究に必要となるデータ収集、論文の骨格についてのイメージ共有、論文執筆に当たっての役割分担の確認作業などが当初想定していた以上に進捗した(【研究実績の概要】を参照のこと)。 共同研究者とは、渡航以前よりSkypeなどにて打ち合わせを繰り返していたが、膝をつき合わせて、ホワイトボードを見ながら議論することの効果は大きく、現在掲げているプロジェクトの進捗という意味にとどまらない、今後も財産として機能する研究ネットワークを形成できたと感じている。 その一方で、COVID-19の影響により、所属研究機関より帰国指示がなされたため、渡航期間は当初予定していたよりも短くせざるを得なかった(約2ヶ月間の短縮)。生活・研究両面で軌道に乗っていた段階だっただけに、この切り上げは非常に惜しまれることであったが、上述の通り、当初想定していた以上の研究進捗を帰国までに達成できたので、研究計画は概ね順調に進展しているものと評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度中に整理したデータ類を用いて、実証分析を進めていくことが2020年度における第一の課題である。具体的には、大名毎あるいは国毎(ここで言う国とは摂津・肥後などの旧国名である)に、石高・人口・気候に関するパネルデータを作成し、これら三つのデータの相互関係を計量的に明らかにする作業である。 第二に、天保飢饉に関するAnecdotal Evidenceも含めたデータ収集である。【研究実績の概要】で述べた通り、我々は天保飢饉の影響が地域毎に異なったのではないか、との仮説に強い関心を持つに至った。天保飢饉の進行過程、被害状況を大名毎に詳細に見ていくことで、上記計量分析のサポートエビデンスにしたい考えである。 第三に、中国との比較軸を明確にすることである。上記の作業によって、徳川日本において公共事業を担った層(具体的には諸大名)の経済力に関する具体像が見えてきたところで、基本的には民間任せであったと言われる清朝中国における公共投資のあり方との比較を進めたいと考えている。とはいえ、清朝中国の農村部における農業生産力を直接示すデータは得がたいので、農業生産力の代理変数として気象データに着目し、日本におけるそれと比較する作業を進めていきたいと考えている。 以上、第一と第二の作業がうまく進捗すれば、年度内にもディスカッションペーパーを作成し、国内外のセミナーにて研究報告を実施したいと考えている。
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Research Products
(10 results)