2019 Fiscal Year Research-status Report
Empirical studies on the emergence of innovations and knowledge networks
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18KK0347
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
山田 恵里 名古屋市立大学, 大学院経済学研究科, 講師 (30706742)
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Project Period (FY) |
2019 – 2021
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Keywords | 知識ネットワーク / イノベーション / 経済複雑性指標 / Product space |
Outline of Annual Research Achievements |
基課題では地域経済の生産性成長に関わる産業集積を形成する産業や地域を特定し,産業集積に立地している事業所から生産性を高めるイノベーションが生じやすいことを明らかにした。基課題を発展させる本研究では産業集積とイノベーションの関係に着目し,イノベーションが生じる経路として産業や地域に根差している知識ネットワークの構造を明らかにすることを目的とする。他産業に比して産業の集積する傾向が高い自動車産業を対象に,自動車産業で蓄積されてきた知識ネットワークがどのように創発してきたか解明する。分析には自動車部品と部品製造サプライヤに関する時系列データを利用した。 分析結果より,自動車部品の知識ネットワークの構造は時間の変化とともに,部品間の関係性はより近く,密度はより高くなることが判明した。知識ネットワークの中心部は洗練された技術の複雑な組み合わせを要する部品によって構成され,中心部に位置する部品は期間ごとに異なっていた。一方,末端部(周辺)に位置する部品は遍在的な技術の組み合わせから製造される部品が多く,期間を通じて部品の変化は少なかった。つまり,知識ネットワークの創発は中心部の洗練性の高い部品が入れ替わることによりもたらされていることが示された。 分析期間中に出現した新規部品をイノベーションとして捉えた計量経済モデルの推定結果より,イノベーションの発生には洗練性の高い部品の技術が密接につながっている環境が有意に影響していることが明らかとなった。知識ネットワークの創発に寄与するイノベーションは知識ネットワーク上でランダムに出現するのではなく,既存部品の技術的なつながりが関わっていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はイノベーションと知識ネットワークの創発について,ネットワーク科学の手法を用いて検証することを計画していた。自動車部品の納入に関する時系列データ(1988年から2016年)を用いた分析により,自動車産業におけるイノベーションの発生に必要な知識ネットワークの構造や,累積的なイノベーションが知識ネットワークの創発に関連することを明らかにすることができたことから当初の計画どおりの進捗があった。 研究成果は論文としてまとめ,国内学会と国際会議にて報告した。報告と意見交換を通じて海外研究者と新たな研究を進行させる機会を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は知識ネットワークがどのような地域において創発するか,という問を地域科学の側面から明らかにすることを目的とした研究を進める。特に,産業集積における知識ネットワークを通じた知識スピルオーバーによるイノベーションの発生について検証する。 分析にはこれまで利用してきたデータに自動車部品を製造しているサプライヤの工場情報(住所,製造部品)を追加する。住所情報をもとに工場の立地や立地密度から産業集積が分布している地域や範囲を特定し,産業集積に立地しているサプライヤの製造部品をもとに産業集積で構築されている知識ネットワークを解明する。新規部品の出現だけではなく,需要が低くなったことにより知識ネットワークから消滅する部品も捉えながら分析を発展させる。地域や産業に固有なイノベーションやイノベーションの基盤となる知識ネットワークを動的に分析し,産業集積で生じる知識スピルーオーバーの波及経路だけではなく産業集積が地域経済へもたらす成長を示す。
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