2020 Fiscal Year Research-status Report
国際貿易と産業集積:最終財貿易と中間財貿易の要因と影響
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18KK0348
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
清田 耕造 慶應義塾大学, 産業研究所(三田), 教授 (10306863)
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Project Period (FY) |
2019 – 2021
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Keywords | 構造グラビティ・モデル / 中間財 / 最終財 / 通商摩擦 / 国際貿易 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の英国におけるBrexitや米トランプ政権の保護主義的な通商政策,米中の通商摩擦の拡大など,経済のグローバル化の負の側面が注目を浴びている.しかし,これまでの多くの研究は最終財の貿易を前提としており,最終財と中間財の違いは必ずしも考慮されていないという問題があった.2000年以降,最終財の貿易だけでなく中間財の貿易も拡大していることを踏まえると,最終財の貿易のみを前提とした経済モデルでは,国際貿易・産業集積の要因や影響を見誤ってしまう可能性がある.
本国際共同研究では最終財貿易と中間財貿易の違いに注目し,貿易の要因の分析を試みた.研究の方法は,グラビティ・モデルの推定に基づくものである.グラビティ・モデルの研究はこれまでにも数多く行われているが,最終財と中間財を分離するという試みは,我々が知る限り,行われていない.そこで本研究は最終財と中間財それぞれについてグラビティ・モデルを推定し,それぞれの要因の類似点・相違点を明らかにした.実証研究を進める上で最も重要な点は,最終財と中間財の貿易を分離することにある.しかし,通常の貿易統計では貿易された財が最終財なのか,それとも中間財なのかの区別がつかない.そこで本研究ではOECDの発表する付加価値貿易データを利用することで,最終財貿易と中間財貿易の分離を試みた.また,推定にあたっては貿易額がゼロとなるケースを明示的に考慮するため,ポワッソン疑似最尤推定法を利用した.
分析の主要な結果は,最終財貿易だけでなく中間財貿易についても,グラビティ・モデルの想定する要因によってうまく説明できるというものである.この結果は,グラビティ・モデルを生産者の利潤最大化から導出することができるとする理論モデルを支持するものであり,グラビティ・モデルの有用性を確認するものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
グラビティ・モデルによる中間財・最終財貿易に関する研究は,国際経済学で定評のある国際的な学術誌The World Economyの2020年8月号に掲載された.また,関連して進めていたグラビティ・モデルによる対外直接投資の分析は日本経済の研究に関する学術誌Journal of the Japanese and International Economiesの2020年9月号に掲載された.
現在は,これらの研究から着想を得たボイコット運動の影響に関する研究を,ハワイ大学のTheresa Greaney教授,ソウル国立大学JaeBin Ahn教授とともに進めている.この国際共同研究は通商摩擦が国内の地域レベルの貿易に及ぼす影響に注目するものである.国際的な通商摩擦は様々な形態をとるが,その一つとして消費者によるボイコット運動が挙げられる.ボイコット運動は関税に似た輸入制限措置であり,輸入国だけでなく輸出国にもマイナスの効果を与えうる.このようなボイコット運動はこれまでにも様々な形で行われており,それに関する研究も始められている.しかし,通商摩擦に起因するボイコット運動が一国全体の貿易に及ぼす影響については分析が進められているが,国内の地域レベルの貿易に及ぼす影響については分析が進められていない.このような背景を踏まえ,昨年度は韓国の消費者によるボイコットに注目し,ボイコットが日本の各都道府県のサービス輸出に及ぼした影響の分析を試みた.現在までにベースラインの結果のまとめと結果の頑健性の確認を終えており,研究の取りまとめの段階にある.
研究当初は研究計画期間での一つの国際共著論文の掲載を目標としていたが,研究計画期間中に二つの共著論文が国際的な学術誌に掲載され,さらに拡張した研究が順調に進んでいることを踏まえると,当初の計画以上に順調に研究が進んでいると判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策として,現在取り組んでいる通商摩擦の国際共同研究を継続・深化させることを検討している.特にハワイ大学のTheresa Greaney教授,ソウル国立大学JaeBin Ahn教授と取り組んでいるボイコット運動の影響に関する研究をとりまとめ,学術誌に掲載することが当面の目標である.
Greaney教授,Ahn教授との国際共同研究では訪日外国人の数に注目し,ボイコット運動が訪日外国人数に及ぼした影響を都道府県レベルで明らかにしている.近年の国際貿易に関する研究では経済活動の安定のために貿易相手国の多様化の重要性が指摘されている.この指摘を踏まえると,韓国からの訪日外国人に大きく依存している都道府県ほど,ボイコットの影響が大きいことが予想される.本研究では,この予想に関する統計的な検証を試み,上記の予想が概ね支持されることを確認した.コロナ禍の中で国際的な学会が延期・中止になっているが,本研究の結果を可能な限り国内外の学会・研究会で報告を続けることで,分析の内容や結果の信頼性について広く意見を求めていきたいと考えている.
また,本研究に関連して,昨年度,日本国際経済学会第79回全国大会において,近年の通商摩擦の影響に関する研究動向についての講演を行った.今後はこれらをとりまとめ,学術誌掲載のための準備を進めていく.
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