2020 Fiscal Year Research-status Report
Jurisdiction under the UNCLOS Dispute Settlement System
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18KK0364
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
玉田 大 神戸大学, 法学研究科, 教授 (60362563)
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Project Period (FY) |
2019 – 2021
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Keywords | 国連海洋法条約 / 管轄権 / 客観訴訟 / 附属書VII仲裁裁判所 / 訴えの利益 / 沿岸国訴訟 / 国際裁判 / 国際司法裁判所 |
Outline of Annual Research Achievements |
本来、2020年度に在外研究を開始し、国際共同研究に従事する予定であったが、コロナ禍のため、在外研究自体を延期している。他方で、国内にありながらも、国連海洋法条約の紛争解決における管轄権法理については研究を進め、以下の点での研究成果を得ることができた。 第1に、European Journal of International Lawに投稿していた拙稿(The Timor Sea Conciliation: The Unique Mechanism of Dispute Settlement)が公表された。本稿では、初の強制調停事案である東チモール対豪の事件を詳細に分析した。本事件については、既に他にも評釈が発表されつつあるが、本格的に判断内容に踏み込んだ評釈は見られないため、この点で大きな学術的貢献を果たしたと考えられる。特に、国連海洋法条約上の紛争解決手続においては、複数の手続が複合的・補完的に設計されており、その中での強制調停手続の作用を明らかにした。とりわけ、強制調停手続自体を客観訴訟と捉えるのは困難であり、むしろ当事者間の利益バランスを維持するために、客観的秩序の維持を犠牲にするという側面があると考えられる。 第2に、国連海洋法条約上の客観訴訟に関連して、日本の商業捕鯨に対する他の締約国からの提訴の可能性を検討してきた。その成果として、拙稿「国連海洋法条約における商業捕鯨の法的評価」浅田他編『現代国際法の潮流 I ― 総論、法源・条約、機構・経済、海洋、南極・宇宙』(東信堂、2020年11月)404-420頁が公表された。本稿では、日本の商業捕鯨が国連海洋法条約上の実体規定に違反し得るという点を明らかにした上で、客観訴訟として他のいずれの締約国からも提訴される可能性があることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
残念ながら、在外研究は開始できていないものの、その準備作業としての研究活動は順調に進んでいる。また、関連する国際判例が多く出ており、分析の素材が多く見つかっている。第1に、上記のようにEuropean Journal of International Lawにおいて、拙稿(The Timor Sea Conciliation: The Unique Mechanism of Dispute Settlement)が公表された。強制調停に関しては、客観訴訟に直接関係するものではなく、むしろそれに反する性質を有するものであるという結論を得ることとなったが、逆に、国連海洋法条約上の紛争解決制度の全体像を把握する視座を得ることができた。すなわち、客観訴訟のような法秩序維持の要請を反映した手続が求められると同時に、強制調停のように私的な・二辺的な利益バランスを図る手続も組み込まれており、両者の関係が問題となり得る。こうした分析視点を得ることができたことにより、今後の研究の進捗が期待できる。第2に、商業捕鯨の法的評価を検討した結果、国連海洋法条約上の客観訴訟の可能性が否定できないことが明らかになった。というのも、同条約上、多くの義務が当事者間対世的義務として構築されていることから、仮に内水・領海内・EEZ内の捕鯨活動であっても、他の締約国が義務遵守に利益を有し得ることが明らかになった。特に、商業捕鯨に関しては、国際司法裁判所における敗訴以降、日本は国際捕鯨取締条約から脱退し、商業捕鯨を再開したこともあり、同条約上の違反を問われる可能性はなくなっている。他方で、国連海洋法条約上の実体的義務は残っており、さらに客観訴訟の可能性が残されていることを明らかにした点は、大きな学術的・実務的な貢献であると言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
まず2021年度の間に在外研究を開始できるように準備を行う。また、在外研究中の国際共同研究について、受入機関との連絡を緊密にする。受入機関側(ロンドン大学)もコロナ禍で研究教育手法が大きく変化しているため、連携をとりながら、可能な共同研究の形を模索する予定である。 第1に、深海底・公海を巡る紛争があり得る。例えば沖ノ鳥島の権原紛争については、客観訴訟が提起される可能性が否定できない。沖ノ鳥島の法的地位を決定することが、同時に深海底・公海の広さを決定することに繋がるためである。そのため、他の全ての国がこの紛争について利益を有することが想定される。このような権原紛争について、国際司法裁判所で発達しつつある客観訴訟(国家責任追及の場面におけるスタンディングの拡張)がそのままの形で認められるか否かについては、慎重な検討を要する。特に、責任法上の法的関係と権原法上の法的関係が同じ土俵で議論し得るのか否かを明らかにする必要がある。 第2に、次に問題となるのが「紛争」概念であり、この点の分析にも進む予定である。国際判例上の「紛争」概念について、一定程度の判例が形成されており、さらに「判例法」の形成までが認められている。他方で、その内容については未だ明らかでない点が多く残されているところである。特に本研究との関係で問題となるのが、紛争の「当事者」の射程である。上記の問題について言えば、沖ノ鳥島の法的地位を巡る権原紛争の当事者となり得るのが、どの範囲の国となるのか、という問題である。この点については、国際司法裁判所の南西アフリカ事件における議論(紛争当事者の射程の問題と出訴適格の問題)をまずは検討する必要があるため、関連判例を含めて検討する予定である。 いずれにしても、国際司法裁判所の関連判例を分析しつつ、国連海洋法条約に関する最新判例の分析を進める必要がある。
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