2019 Fiscal Year Research-status Report
The measurement theory of heat current fluctuations through nanoscopic quantum conductors
Project/Area Number |
18KK0385
|
Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
内海 裕洋 三重大学, 工学研究科, 准教授 (10415094)
|
Project Period (FY) |
2019 – 2021
|
Keywords | 物性理論 / メゾスコピック系 / 非平衡量子輸送 / 熱量揺らぎ測定 / 情報通信 |
Outline of Annual Research Achievements |
本国際共同研究では、基課題(基盤研究(C)「メゾスコピック量子導体における情報流・熱流・電流のゆらぎ」研究課題17K05575)において構築した情報エントロピー(エンタングルメント・エントロピー)・熱量(熱力学的エントロピー)・電荷量の揺らぎ相関についての理論研究を、実験研究とつなげることを目的としている。共同研究先(フィンランド・アールト大学応用物理学科)への出張は、前半2019年後期および後半2020年後期の合計8ヶ月程度にわたり行う計画であり、今回は前半の出張(2019年9月26日~2020年2月12日)を行った。前半の研究計画は、「1-1)熱流揺らぎ分布測定の理論の構築」および、「2-1)超伝導量子ビット等における熱量揺らぎ分布の理論の構築」であり、今回の渡航では、以下の成果を得ている。 2-1)超伝導量子ビット等における熱量揺らぎ分布の理論の構築:温度の異なる2つの熱溜に結合した、超伝導量子ビット構造または超伝導SQUID構造を透過する、熱流の期待値および熱流ノイズの磁場依存性に関する理論計算に着手した。現在、熱流ノイズの測定についての実験技術が進んでおり、渡航先の実験グループでは揺動散逸定理の検証も行っている。揺動散逸定理を超えた、非平衡領域で成立する揺らぎの定理に関して、電気伝導については、アハロノフ・ボーム干渉計を用いた検証実験があるが、熱伝導についての検証実験はまだない。この研究は、量子系の熱伝導に関する揺らぎの定理の検証実験を念頭において行っている。今後は確率微分方程式の数値計算を行い、論文としてまとめる予定である。 1-1)熱流揺らぎ分布測定の理論の構築:超伝導トンネル接合等のオンチップ固体電子素子を用いた、温度計または熱量計の、雑音等価温度または雑音等価電力の上界または下界を、情報量の揺らぎおよびRenyi相対エントロピーを用いることで導いた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「渡航前の計画」について、申請してから渡航までの1ヶ月間、計画通り、渡航準備にあてた。 「渡航先での計画(2019年10月-2020年2月)」に関して、前半の研究計画は、「1-1)熱流揺らぎ分布測定の理論の構築」および、「2-1)超伝導量子ビット等における熱量揺らぎ分布の理論の構築」であった。「研究実績の概要」でも述べたとおり、「2-1)超伝導量子ビット等における熱量揺らぎ分布の理論の構築」については、渡航先の実験グループの研究の方向性にも合致し、かつ近い将来実現可能な理論的に意味がある結果を得つつある。 また、「1-1)熱流揺らぎ分布測定の理論の構築」については、基課題の研究成果を拡張することで、雑音等価温度または雑音等価電力について、新たに基礎的な知見を得ることができた。これは、海外共同研究者との日々の緊密な議論を通じて、着想したものであり、当初は予期していなかった成果である。渡航先の実験グループが得意とする、熱量測定等、熱輸送現象を扱う基盤実験技術と密接に関連しているものであり、この結果も渡航先のグループの研究の方向性に合致している。 また、三重大側研究協力者の大学院生が就職したため、2020年4月から期間終了までの2年間の予定で、研究協力者を採用し、協力して研究計画を遂行する見通しとなった。ただ、実績報告の時点では、開始後まだ半年しか立っていないこと等の理由で、学会発表等の成果をあげるまでにはいたっていない。しかし、論文の作成までの見通しがついたこと、研究協力者を迎え共同研究体制も強化されつつあることから、概ね順調に進展したと自己評価を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
現時点ではおおむね計画どおり進めている。今後も計画どおり進めて、成果をまとめる予定である。 帰国後の計画(2020年3月-2020年9月):三重大の計算機を使い、確率微分方程式の数値計算をおこなう。超伝導量子ビット構造または超伝導SQUID構造において、位相のスリップの熱流の期待値および熱流ノイズの磁場依存性に与える効果を、古典マスター方程式に基づく完全計数統計理論を用いて記述し、数値計算を行うことで取り入れる。このトピックについては、2019年4月から着任した、研究協力者とともに遂行する。また、以上の計算は古典領域に限られるため、研究協力者の助力のもと、量子系へ拡張することを目指す。具体的には、2つの熱溜に結合した超伝導量子ビットを、ボーズ粒子についてのタイト・バインディングモデルに簡略化して記述し、多粒子状態、熱流の期待値や熱伝導度の数値計算を行う計画である。 渡航先での計画(2020年10月-2021年2月): 後半の出張では、計画「2-1)超伝導量子ビット等における熱量揺らぎ分布の理論の構築」を引き続き行い、論文にまとめる計画である。また、計画「1-1)熱流揺らぎ分布測定の理論の構築」については、現時点では、オンチップ温度計または熱量計が平衡状態の周りで動作する場合でしか、雑音等価温度または雑音等価電力の議論ができていない。そこで多経路Keldysh場の理論を用いて相対Renyiエンタングルメント・エントロピーを非平衡状態で計算することで、非平衡状態で動作した場合においても、雑音等価温度または雑音等価電力の限界を調べる計画である。この計画では海外共同研究者と共同で、Keldysh場の理論の解析を行う。 帰国後の計画(2021年3月-期間終了まで):研究協力者とともに三重大の計算機を用いた数値シミュレーション、数値計算を引き続き行い、成果を論文にまとめる計画である。
|