2020 Fiscal Year Research-status Report
The measurement theory of heat current fluctuations through nanoscopic quantum conductors
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18KK0385
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
内海 裕洋 三重大学, 工学研究科, 准教授 (10415094)
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Project Period (FY) |
2019 – 2021
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Keywords | 物性理論 / メゾスコピック系 / 非平衡量子輸送 / 熱量揺らぎ測定 / 情報通信 |
Outline of Annual Research Achievements |
本国際共同研究では、基課題(基盤研究(C)「メゾスコピック量子導体における情報流・熱流・電流のゆらぎ」研究課題17K05575)において構築した情報エントロピー(エンタングルメント・エントロピー)・熱量(熱力学的エントロピー)・電荷量の揺らぎ相関についての理論研究を、実験研究とつなげることを目的としている。 2-1)熱流揺らぎ分布測定の理論の構築:このテーマは当該研究課題の基課題と関係している。基課題で得た成果を拡張し本課題とつなぐ論文として超伝導伝送線つまりボーズ粒子系を対象に、ゼロ次のRenyiエンタングルメント・エントロピーを、熱流量についての拘束条件を与えたもとで計算し、最大通信容量を求めた。また熱流量が大きく波としての振る舞いが顕著に現れる領域において、透過確率にエネルギー依存性がある場合、古典情報理論における注水定理を再現することを示した。この成果はUtsumi, “Y. Fluctuation of information content and the optimum capacity for bosonic transport”. Eur. Phys. J. Spec. Top. (2021) として報告した。 2-2)超伝導量子ビット等における熱量揺らぎ分布の理論の構築:微弱熱量揺らぎの分布の理論の構築の量子系への拡張を目指し、超伝導伝送線に結合した超伝導量子ビットの熱伝導を数値繰り込み群による解析を行った。現在まで、ボゾン系の数値くりこみ群の計算プログラムの開発を中心に研究を遂行し、量子ビットの状態が3状態の場合に、熱伝導度や不純物エントロピーの温度依存性の計算を行った。この成果は海外共同研究者と共著で日本物理学会で報告した(「数値くりこみ群によるボゾンの粒子浴に接続された超伝導量子ビットの解析」、日本物理学会大76回年次大会 2021年3月12日)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予期していなかったが、新型コロナウイルス感染症の流行が止まず、渡航先のフィンランドが2020年度中、外務省海外安全情報渡航中止勧告(レベル3)に指定され、渡航が困難な状況が続いた。2020年10月-2021年2月の約4ヶ月滞在する計画であったが、延期となったため対応策として、SkypeやZoom等オンラインによる議論やメール等を中心に遂行可能な課題を優先して進めた。 計画2-1):当初計画は、2019年度の渡航時の「1-1)熱流揺らぎ分布測定の理論の構築」の研究を続け、実験と比較できる物理量の計算を海外研究者のGolubev博士と共同で行う予定であった。これは、現地で共同研究を行うことが望ましく、研究期間延長申請を行って続けることとした。2020年度は超伝導伝送線を対象に、最大通信路容量の計算および量子通信路における注水定理の研究を行った。 計画2-2):当初計画は、2019年度の計画「2-1)超伝導量子ビット等における熱量揺らぎ分布の理論の構築」で着手した研究を続け結果をまとめる、微弱熱量揺らぎの分布の理論の構築を量子系に拡張する、の2点であった。前者は、研究期間延長申請を行って続ける。後者は、スピン・ボゾン系の数値くりこみ群の先行研究を参考に遂行したが、超伝導伝送線に結合した超伝導量子ビットに拡張するために、多状態への拡張や相関関数の計算法の改善が必要であるなど、技術的な問題点が明らかになった。これについては今後も共同研究を進める計画である。 【今後の研究の推進方策】で述べるが、一部の研究計画は研究期間延長申請を行った上で今後行う。一方で、海外研究者のコメントとアドバイスをうけたカイラル分子接合の伝導についての成果は論文として出版し、またオンラインでの共同研究の成果は海外研究者との共著で学会報告することができたため「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の変更:以下の「研究を遂行する上での課題」で記す理由から、2020年度後期(2020年10月-2021年2月)に行う予定であった計画を研究期間延長申請を行った上で後ろにずらして行う。計画「2-2)超伝導量子ビット等における熱量揺らぎ分布の理論の構築」を引き続き行い、論文にまとめる計画である。計画「2-1)熱流揺らぎ分布測定の理論の構築」:非平衡Keldysh場の理論を用いて、実験と比較できる物理量の計算を行う。また非平衡状態における相対Renyiエンタングルメント・エントロピーを多経路Keldyshグリーン関数法を用いて計算し、非平衡の動作点におけるオンチップ温度計の雑音等価温度または雑音等価電力の限界を調べる。 研究を遂行する上での課題:【現在までの進捗状況】で述べたように、2020年後期(2020年10月-2021年2月)の渡航は延期となった。そのため一時的対応策として、SkypeやZoom等オンラインによる議論やメールのやり取りを中心に共同研究を進めた。根本的な対処法として、研究期間延長申請を行い大学業務の再調整を行った上で、可能な限り当初の予定に沿った渡航日数を確保したいと考えている。渡航可能になり次第、2週間から1ヶ月間程度の滞在を、複数回行い、合計2ヶ月以上から4ヶ月の滞在となるよう渡航先と調整をしている。現地で議論をしたほうが効率的に進む実験と繋がりの深い課題は、出張が再開されてから遂行する予定とし、オンラインでの議論を中心に進めることができるテーマを優先して行った。今後も渡航が困難な状況が続く場合は、オンラインによる議論やメールのやり取りで研究を遂行する計画である。
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