2019 Fiscal Year Research-status Report
Structural role of CaMKII in PSD and the induction of LTP by optpgenetics.
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18KK0421
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
細川 智永 京都大学, 医学研究科, 特定研究員 (30602883)
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Project Period (FY) |
2019 – 2021
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Keywords | シナプス可塑性 / シナプス / 長期増強 / 液液相分離 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はシナプス可塑性、学習と記憶の分子メカニズムに注目している。神経細胞を接続しニューロンネットワークを構築するシナプスには、様々な蛋白質が集合している後シナプス肥厚(PSD)と呼ばれる構造体が存在する。我々はこれまでに、PSDの新規蛋白質の取り込みがシナプスの長期増強に決定的であることを見出した。特にCaMKIIという分子の取り込みが重要であることが示唆された。CaMKIIはカルシウム依存性キナーゼであり、カルシウムイオンの細胞内流入に反応し長期増強を実行する因子として広く知られていたが、具体的にどのような働きをしているのかは不明だった。CaMKIIにはその発現量や立体構造にキナーゼとしては説明できない特徴があり、我々はCaMKIIがPSDにおいて構造的な役割を果たしていることを提案してきた。間接的な証拠は集まったが、しかしながら直接的に実験的に証明することが難しかった。 一方で香港科学技術大学のProf. Mingjie Zhangのグループは、PSDが形成されるメカニズムが液液相分離であることを提起した。液液相分離は蛋白質や核酸が液相として集合し細胞質から分離する現象であり、現在の生命科学分野でホットトピックになっている。アルツハイマー病で見られる老人斑は固相の蛋白質凝集体であるが、液相としての集合体は液相であるがゆえに蛋白質が可逆的に集合と離散・拡大と縮小を起こしており生理的な役割を担っている。 我々はCaMKIIがPSDの液液相分離に重要な役割を果たす可能性に着想し、申請者が赴く形で共同研究を開始した。本研究では、CaMKIIの液液相分離に果たす構造的な役割を明らかにするとともにそれを光遺伝学の技術で再現する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
液液相分離の研究には高度な蛋白質精製技術が不可欠である。そこで香港科学技術大学ではまずは蛋白質精製技術を習得した。特にCaMKIIの精製を完全に行える研究室は申請者の知る限り世界にここしか存在しない。蛋白質精製技術を習得したのちに、実験に用いる蛋白質を用意した。具体的にはCaMKIIと各種変異体、NMDA受容体サブユニットのGluN2Bと各種変異体、AMPA受容体の補佐的サブユニットStargazin、細胞接着因子のNeuroligin、足場タンパク質のPSD-95である。 CaMKIIとGluN2bを混合し、興奮性刺激を与えたところ、CaMKIIの立体構造が変化しGluN2bと結合し蛍光顕微鏡で観察可能な液滴が観察された。蛍光褪色アッセイを行なったところ蛋白質の入れ替わりが起きており、また液滴同士が融合している様子が観察された。これらはこの液滴が蛋白質の液液相分離で生じていることを証明している。 次にこれをPSD-95とStargazinおよびNeurologin存在下で行ったところ、興味深いことに、PSD-95とStargazinとNeuroliginがCaMKII-GluN2bの液滴の内部に濃縮される現象が見られた。これは物理化学では液滴内液滴として表現される現象だが、生体分子での報告はほとんどなく、極めて面白い現象である。また超高解像顕微鏡を用いた研究では実際のシナプスでもこれら三者が濃縮されていることが分かっており、本研究がこのメカニズムであると考えられる。そこでUniversity of Bordeauxに三か月渡航し、共同研究として培養神経細胞にCaMKIIの阻害剤を処理し超高解像顕微鏡でNMDA受容体とAMPA受容体の分布を観察したところ、Controlでは分布が分離していたのに対して阻害剤処理群では分離が崩れていた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究はシナプス可塑性の全く新しいメカニズムとしてトップジャーナルに投稿準備をしている。この新しいシナプス可塑性の分子メカニズムを基に、光遺伝学でCaMKIIの局在を自在に制御しシナプスの情報伝達効率を操作する技術を開発していく。具体的には、青色光によって結合するタンパク質ペアCIBNとCRY2を用いる。GluN2bや他のPSDタンパク質にCRY2を融合し発現し、CIBN-CaMKIIの局在を操作する。長期増強にはCaMKIIのPSDへの取り込みが必要十分であるため、長期増強を模倣できると期待される。また光分解タンパク質PhoClを用いてCaMKIIを単量体化する試みも進めている。CaMKIIの12量体構造はその構造的役割に必須であるため、CaMKIIの単量体化によって長期抑圧に類似した現象を誘導できると考えられる。 しかしながら、今回発見した新たなシナプス可塑性のメカニズムのインパクトが大きく、様々な発展が期待されている。例えばシナプスの長期抑圧は液液相分離の可逆性によって担保されていると考えられ、ほとんど研究が進んでいない長期抑圧のメカニズムをも解明できると期待している。またCovid-19の影響により海外渡航と受入自体が難しくなっており、渡航先と研究計画を見直す必要があるだろう。
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Research Products
(1 results)