2019 Fiscal Year Research-status Report
南極洞窟に優占棲息する新奇生物資源クテドノバクテリア菌株の拡充と生理特性の解析
Project/Area Number |
18KK0424
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
矢部 修平 東北大学, 農学研究科, 准教授 (60564838)
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Project Period (FY) |
2019 – 2020
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Keywords | クテドノバクテリア / 南極 / WPS-2 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、創薬資源である「放線菌」に由来する新規抗菌薬の発見頻度が急減するなか、新奇の抗生物質生成菌群「クテドノバクテリア(綱)」が発見された。この分類群は 2010 年まで培養菌種が僅か1 種であり、それ以外は未培養菌群から成る謎の系統であったが、筆者らは分離培養に成功し、本綱に1目 2科 3属 5種を創設した。驚くことに、この菌群は共通してカビや放線菌のように高度な形態分化を示し、新規の抗菌・抗腫瘍物質を生成するなど人類にとって有益な次世代の生物資源と成り得ることを見出した。最近、 海外共同研究者の Bradley Tebo教授は日本国内では検出できなかった本綱の未培養菌群が南極にある Erebus山(標高 3,794m)の洞窟内火山岩堆積物に優占していることを発見したが、分離培養には至らなかった。 本国際共同研究では、筆者らが有する分離技術を駆使し、それら南極由来の未培養菌群の分離培養を目指した。その結果、クテドノバクテリア綱の新しい系統に属するWC7-1株の分離に成功した。それを分子系統解析したところ、少なくも新科レベルで新しい系統であることが明らかとなった。 他方、クテドノバクテリアの探索中に思いがけない発見があった。南極などの貧栄養な環境で主要菌群となることで知られWPS-2と呼ばれる巨大な未培養系統(門)に属する細菌の分離に成功した(WC8-5株)。この系統は炭酸固定を持つ分類群であることがメタゲノム解析で予想されているが培養株が存在しないため代謝や特徴の実態は不明であった。 以上、本研究(2019年度)により、極限貧栄養環境でのエコシステム解明の鍵となる2つの未培養系統の分離培養に成功した。これは基礎・応用面で有益な我が国の遺伝資源の拡充に貢献できるだけでなく、生物の最小栄養要求性の解明につながる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
次世代の生物資源「クテドノバクテリア(綱)」は未培養菌群も含めると巨大な分類群であるが培養菌株は3科に限られ開拓の余地は大きい。海外共同研究者のTebo教授は南極にある Erebus山(標高 3,794m)の洞窟内火山岩堆積物に、本綱に属する科レベルで新規の未培養菌群が圧倒的に優占していることを発見した。本共同研究の当初の計画は、我々の分離技術を共有することで、これら南極由来新規菌群の分離・分類に挑み、それらの培養生理特性を解明して、この有益な生物資源をさらに拡充させる事であった。 2019年度の進捗状況として、本共同研究によって当初の計画通りにクテドノバクテリア綱の新しい科に属すると推定される新規株WC7-2株の分離培養に成功した。この系統は極めて生育が遅いため、最適な培養及び保存条件を見出すべく解析中である。そのため代謝や培養生理学的性質、ゲノムの解読には至っていない。他方で、南極などの貧栄養な環境で主要菌群となることで知られWPS-2と呼ばれる巨大な未培養系統(門)の分離培養(WC8-5株)に成功した。この系統は炭酸固定を行う分類群であることがメタゲノム解析で予想されているが培養株が存在しないため代謝や特徴の実態は不明であった。Bacteria界に属する門レベルで新規な系統の分離株を得たことは当初の計画には無い重要な発見となった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、このクテドノバクテリア綱に属し新科と推定されるWC7-2株とBacteria界に属し新門と推定されるWC8-5株は、生育が遅く分類及び代謝解析やゲノム解読に十分な菌体を得ることが困難である。そのためにまずは最適培養及び保存状況を確立する。 続いて、炭素・エネルギー代謝を含む培養生理学的、化学分類学的、ゲノムの特徴を解明し、系統分類学的位置を明らかとして新規系統として創設する。同時にカルチャーコレクションに寄託することで我が国の遺伝資源を拡充する。 さらに、これらの系統が南極洞窟内の光が無く極めて貧栄養な環境で何故ポピュレーションを維持できたのか?その生存戦略の解明を目指す。
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