2020 Fiscal Year Research-status Report
南極洞窟に優占棲息する新奇生物資源クテドノバクテリア菌株の拡充と生理特性の解析
Project/Area Number |
18KK0424
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
矢部 修平 東北大学, 農学研究科, 准教授 (60564838)
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Project Period (FY) |
2019 – 2022
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Keywords | WPS-2 / 南極 / 光合成細菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
かつて生物圏外と考えられた南極の砂漠などの極限貧栄養環境では原核生物を中心としたエコシステムが成り立っている。そのエコシステムを支える菌群は従来法での培養が難しく多くは高次分類階層(科~門)レベルで未培養である。とりわけ既知の1次生産者(シアノバクテリアや藻類)が活動しない生態機能は謎に包まれている。クテドノバクテリア綱の未培養系統と新門候補WPS-2はいずれもシアノバクテリアが活動しない極限貧栄養環境下で共存して優占棲息することが数多く報告されており、そのエコシステムのキープレイヤーと考えられる。本研究では、海外共同研究者の Bradley Tebo教授が採取した南極Erebus山(標高 3,794m)の洞窟内火山岩堆積物から新規クテドノバクテリアを分離することを目的に研究を開始し、昨年度は新規クテドノバクテリア(WC7-1株)と未培養系統である新門候補WPS-2(WC8-5)に属する細菌の分離に成功した。しかしながら、新規クテドノバクテリア株(WC7-1株)は継代培養の際に生えてこなくなり、死滅させてしまった。 今年度は新門候補WPS-2に属するWC8-2株に焦点を当てゲノム解析と電子顕微鏡による形態観察を実施した。その結果、本菌株のゲノムには光化学系Ⅱ型反応中心(pufM, L, H)、バクテリオクロロフィル生合成遺伝子及びカルビン・ベンソン回路による炭酸固定系の遺伝子が完備された非酸素発生型光合成細菌であることが分かった。細胞は外膜、内膜と薄いペプチドグリカン層を持つグラム陰性型で、ベシクル状の内膜構造やポリヒドロキシ酪酸様構造体など光合成細菌によく見られる特徴を示した。今後、培養生理学的試験により炭素・エネルギー代謝の特性を明らかとする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本共同研究の当初の計画は、南極サンプルからクテドノバクテリア綱に属する細菌を分離し、それらの培養生理特性を解明して、この生物資源をさらに拡充させる事にあった。 2019年度の進捗状況として、本共同研究によって当初の計画通りにクテドノバクテリア綱の新しい科に属すると推定される新規株WC7-2株の分離培養に成功した。同時に偶然、南極などの貧栄養な環境で主要菌群となることで知られ新門候補WPS-2と呼ばれる巨大な未培養系統(門)の分離培養(WC8-2株)に成功した。Bacteria界に属する門レベルで新規な系統の分離株を得たことは当初の計画には無い重要な発見となった。しかし残念なことに、クテドノバクテリアのWC7-2株は植継に失敗し死滅させてしまった。 2020年度は、新門候補WC8-2株は植継や保存も成功し、ドラフトゲノム解析や細胞形態の観察を終え、現在は培養生理学的試験を含め系統分類学的特徴を解析中である。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、新門候補WC8-2株の炭素・エネルギー代謝や、バクテリオクロロフィルの同定、各種栄養要求性、生育条件など培養生理学的特徴を明らかとし、新しい光合成細菌の新門を創設する。同時にカルチャーコレクションに寄託することで我が国の遺伝資源を拡充する。さらに、これらの系統が南極洞窟内の光が無く極めて貧栄養な環境で何故光合成機能を有しているのか?なぜポピュレーションを維持できたのか?その生存戦略の解明を目指す。 そして南極サンプルから再度クテドノバクテリアの分離に挑戦する。
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