2020 Fiscal Year Annual Research Report
An Integrative Understanding of Theatre Communications through Mathematical Approaches
Project/Area Number |
18KT0076
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
野村 亮太 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授 (70546415)
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Project Period (FY) |
2018-07-18 – 2021-03-31
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Keywords | 集合行動 / 感情 / 劇場 / 非線形時系列解析 / リカレンスプロット / ライブ・パフォーマンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度中に確立した観客に感情体験を喚起する力(以下、「訴求力」と呼ぶ)を、複数の観客が鑑賞時に示す行動から定量化する手法を落語視聴中の観客の瞬目反応データに適用したことで舞台表現の「目を惹く力」を再構成した。同一の演者が異なる観客に対して行った公演で得られた瞬目反応データから再構成された共通入力には、線形・非線形の高い相関が見られ、熟達した演者は視聴経験が異なる観客に対しても、類似した時間的な反応パターンを引き起こせることが示唆された。この結果から、本年度の主たる成果として、異なる観客集団にも共通したパターンを引き起こすことを、表現の集団-交差信頼性(cross-population reliability)と定義した。集団-交差信頼性は、観客の性質(視聴経験等)に関わらず、観客に一貫した反応を引き起こすことができることを示す概念であるが、これは同時に、熟達者の表現が多くの観客を一斉に(時間的に高い精度で同期した)感情反応を生起させるメカニズムの一端についても説明する概念である。それゆえ、集団-交差信頼性は得点化や序列化が容易ではない舞台表現における熟達の程度についての客観的な指標となる。以上の本年度の研究成果は、国内学会および国際シンポジウムにおいて招待講演として発表した。また、本研究課題全体を総括する成果として、学術書1冊および一般向けの入門書1冊を刊行した。 本研究課題を通して、上演芸術を構成する本質的要素としての訴求力を実証的な研究の対象として理解することへの糸口が見出された。これにより、訴求力の強さについて表現者内での縦断研究(熟達化研究)に加えて、影響源となる表現要素(視聴覚情報)の特定も可能になる。これを踏まえて、次期研究課題では、観客の鑑賞時に示す諸行動から訴求力を再構成し、異なるジャンルの表現の訴求力について比較検討していく予定である。
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